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 野呂松人形を使うから、見に来ないかと云う招待が突然来た。招待してくれたのは、知らない人である。が、文面で、その人が、僕の友人の知人だと云う事がわかった。「K氏も御出の事と存じ候えば」とか何とか、書いてある。Kが、僕の友人である事は云うまでもない。――僕は、ともかくも、招待に応ずる事にした。  野呂松人形と云うものが、どんなものかと云う事は、その日になって、Kの説明を聞くまでは、僕もよく知らなかった。その後、世事談を見ると、のろまは「江戸和泉太夫、芝居に野呂松勘兵衛と云うもの、頭ひらたく色青黒きいやしげなる人形を使う。これをのろま人形と云う。野呂松の略語なり」とある。昔は蔵前の札差とか諸大名の御金御用とかあるいはまたは長袖とかが、楽...
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1995(平成7)年10月5日第13刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:j.utiyama 校正:earthian 1998年11月11日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボラ...
{"作品ID": "000112", "作品名": "野呂松人形", "作品名読み": "のろまにんぎょう", "ソート用読み": "のろまにんきよう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「人文」1916(大正5)年8月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-11-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card112.html", ...
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     石敢当  今東光君は好学の美少年、「文芸春秋」二月号に桂川中良の桂林漫録を引き、大いに古琉球風物詩集の著者、佐藤惣之助君の無学を嗤ふ。瀟麗の文章風貌に遜らず、風前の玉樹も若かざるものあり。唯疑ふ、今君亦石敢当の起源を知るや否や。今君は桂川中良と共に姓源珠璣の説を信ずるものなり。されど石敢当に関する説は姓源珠璣に出づるのみにあらず、顔師古が急就章(史游)の註にも、「衛有石侔亦日用不察者也」と。然らばその起源を知らざるもの、豈佐藤惣之助君のみならんや。桂川中良も亦知らざるなり。今東光も亦知らざるなり。知らざるを以て知らざるを嗤ふ、山客亦何ぞ嗤はざるを得んや。按ずるに鍾馗大臣の如き、明皇夢中に見る所と做すは素より稗官の妄誕のみ...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003760", "作品名": "八宝飯", "作品名読み": "パーパオハン", "ソート用読み": "はあはおはん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-28T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3760.html", "人物ID": "000879", "姓"...
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 俳画展覧会へ行つて見たら、先づ下村為山さんの半折が、皆うまいので驚いた。が、実を云ふと、うまい以上に高いのでも驚いた。尤もこれは為山さんばかりぢやない。諸先生の俳画に対して、皆多少は驚いたのである。かう云ふと、諸先生の画を軽蔑するやうに聞えるかも知れないが、決してさう云ふつもりぢやない。それより寧ろ、頭のどこかに俳画と云ふものと、値段の安いと云ふ事とを結びつけるものが、予め存在したと云つた方が適当である。  但し中には画そのものがくだらなくつて、しかも頗る高価なものも全くなかつた訣じやない。が、あれは余りまづすぎるので、人に買はれると、醜を後世に残すから、わざと誰も買はないやうな、高い値段づけをつけたんだらうと推察した。唯、さう云...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003752", "作品名": "俳画展覧会を観て", "作品名読み": "はいがてんらんかいをみて", "ソート用読み": "はいかてんらんかいをみて", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 721", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-28T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3752.html", "人物I...
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 予等は芸術の士なるが故に、如実に万象を観ざる可らず。少くとも万人の眼光を借らず、予等の眼光を以て見ざる可らず。古来偉大なる芸術の士は皆この独自の眼光を有し、おのづから独自の表現を成せり。ゴッホの向日葵の写真版の今日もなほ愛翫せらるる、豈偶然の結果ならんや。(幸ひに GOGH をゴッホと呼ぶ発音の誤りを咎むること勿れ。予は ANDERSEN をアナアセンと呼ばず、アンデルゼンと呼ぶを恥ぢざるものなり。)  こは芸術を使命とするものには白日よりも明らかなる事実なり。然れども独自の眼を以てするは必しも容易の業にあらず。(否、絶対に独自の眼を以てするは不可能と云ふも妨げざる可し。)殊に万人の詩に入ること、屡なりし景物を見るに独自の眼光を以...
底本:「芥川龍之介全集 第十巻」岩波書店    1996(平成8)年8月8日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:松永正敏 2002年5月17日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "004275", "作品名": "梅花に対する感情", "作品名読み": "ばいかにたいするかんじょう", "ソート用読み": "はいかにたいするかんしよう", "副題": "このジャアナリズムの一篇を謹厳なる西川英次郎君に献ず", "副題読み": "このジャアナリズムのいっぺんをきんげんなるにしかわえいじろうくんにけんず", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-10-05T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードU...
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 編輯者 わたしの方の雑誌の来月号に何か書いて貰へないでせうか?  作家 駄目です。この頃のやうに病気ばかりしてゐては、到底何もかけません。  編輯者 其処を特に頼みたいのですが。  この間に書かば一巻の書をも成すべき押問答あり。  作家 ――と云ふやうな次第ですから、今度だけは不承して下さい。  編輯者 困りましたね。どんな物でも好いのですが、――二枚でも三枚でもかまひません。あなたの名さへあれば好いのです。  作家 そんな物を載せるのは愚ぢやありませんか? 読者に気の毒なのは勿論ですが、雑誌の為にも損になるでせう。羊頭を掲げて狗肉を売るとでも、悪口を云はれて御覧なさい。  編輯者 いや、損にはなりませんよ。無名の士の作品を載...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003758", "作品名": "売文問答", "作品名読み": "ばいぶんもんどう", "ソート用読み": "はいふんもんとう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-28T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3758.html", "人物ID": "000879"...
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     一 レエン・コオト  僕は或知り人の結婚披露式につらなる為に鞄を一つ下げたまま、東海道の或停車場へその奥の避暑地から自動車を飛ばした。自動車の走る道の両がはは大抵松ばかり茂つてゐた。上り列車に間に合ふかどうかは可也怪しいのに違ひなかつた。自動車には丁度僕の外に或理髪店の主人も乗り合せてゐた。彼は棗のやうにまるまると肥つた、短い顋髯の持ち主だつた。僕は時間を気にしながら、時々彼と話をした。 「妙なこともありますね。××さんの屋敷には昼間でも幽霊が出るつて云ふんですが。」 「昼間でもね。」  僕は冬の西日の当つた向うの松山を眺めながら、善い加減に調子を合せてゐた。 「尤も天気の善い日には出ないさうです。一番多いのは雨のふる日...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年4月27日公開 2004年3月14日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000040", "作品名": "歯車", "作品名読み": "はぐるま", "ソート用読み": "はくるま", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「文藝春秋」1927(昭和2)年10月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-04-27T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card40.html", "人物ID": "...
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     一 レエン・コオト  僕は或知り人の結婚披露式につらなる為に鞄を一つ下げたまま、東海道の或停車場へその奥の避暑地から自動車を飛ばした。自動車の走る道の両がわは大抵松ばかり茂っていた。上り列車に間に合うかどうかは可也怪しいのに違いなかった。自動車には丁度僕の外に或理髪店の主人も乗り合せていた。彼は棗のようにまるまると肥った、短い顋髯の持ち主だった。僕は時間を気にしながら、時々彼と話をした。 「妙なこともありますね。××さんの屋敷には昼間でも幽霊が出るって云うんですが」 「昼間でもね」  僕は冬の西日の当った向うの松山を眺めながら、善い加減に調子を合せていた。 「尤も天気の善い日には出ないそうです。一番多いのは雨のふる日だっ...
底本:「河童・或る阿呆の一生」新潮文庫、新潮社    1968(昭和43)年12月15日発行    1987(昭和62)年11月5日41刷 入力:蒋龍 校正:田中敬三 2009年3月24日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "042377", "作品名": "歯車", "作品名読み": "はぐるま", "ソート用読み": "はくるま", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2009-04-09T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card42377.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥...
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     一 著書  芭蕉は一巻の書も著はしたことはない。所謂芭蕉の七部集なるものも悉門人の著はしたものである。これは芭蕉自身の言葉によれば、名聞を好まぬ為だつたらしい。 「曲翠問、発句を取りあつめ、集作ると云へる、此道の執心なるべきや。翁曰、これ卑しき心より我上手なるを知られんと我を忘れたる名聞より出る事也。」  かう云つたのも一応は尤もである。しかしその次を読んで見れば、おのづから微笑を禁じ得ない。 「集とは其風体の句々をえらび、我風体と云ふことを知らするまで也。我俳諧撰集の心なし。しかしながら貞徳以来其人々の風体ありて、宗因まで俳諧を唱来れり。然ども我云所の俳諧は其俳諧にはことなりと云ふことにて、荷兮野水等に後見して『冬の日...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月14日公開 2004年3月16日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000023", "作品名": "芭蕉雑記", "作品名読み": "ばしょうざっき", "ソート用読み": "はしようさつき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1923(大正12)年11月~1924(大正13)年7月", "分類番号": "NDC 911", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-14T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/ca...
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 これは上海滞在中、病間に訳したものである。シムボリズムからイマジズムに移つて行つた、英仏の詩の変遷は、この二人の女詩人の作にも、多少は窺ふ事が出来るかも知れない。名高いゴオテイエの娘さんは、カテユウル・マンデスと別れた後、Tin-tun-Ling と云ふ支那人に支那語を習つたさうである。が、李太白や杜少陵の訳詩を見ても、訳詩とはどうも受け取れない。まづ八分までは女史自身の創作と心得て然るべきであらう。ユニス・テイツチエンズはずつと新しい。これは実際支那の土を踏んだ、現存の亜米利加婦人である。日本ではエミイ・ロオウエル女史が有名だが、テイツチエンズ女史も庸才ではない。女史の本は二冊ある。これは一九一七年に出た、二冊目の PROFIL...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003811", "作品名": "パステルの竜", "作品名読み": "パステルのりゅう", "ソート用読み": "はすてるのりゆう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 931 951", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-28T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3811.html", "人物ID": "0...
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 中村さん。  私は目下例の通り断り切れなくなつて、引き受けた原稿を、うんうん云ひながら書いてゐるので、あなたの出された問題に応じる丈、頭を整理してゐる余裕がありません。そこへあなたのよこした手紙をよみかけた本の間へ挾んだきり、ついどこかへなくなしてしまひました。だから、私には答ふべき問題の性質そのものも、甚だ漠然としてゐる訣です。  が、大体あなたの問題は「どんな要求によつて小説を書くか」と云ふ様な事だつたと記憶してゐます。その要求を今便宜上、直接の要求と云ふ事にして下さい。さうすれば、私は至極月並に、「書きたいから書く」と云ふ答をします。之は決して謙遜でも、駄法螺でもありません。現に今私が書いてゐる小説でも、正に判然と書きたいか...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003749", "作品名": "はつきりした形をとる為めに", "作品名読み": "はっきりしたかたちをとるために", "ソート用読み": "はつきりしたかたちをとるために", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-28T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3749....
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 禅智内供の鼻と云えば、池の尾で知らない者はない。長さは五六寸あって上唇の上から顋の下まで下っている。形は元も先も同じように太い。云わば細長い腸詰めのような物が、ぶらりと顔のまん中からぶら下っているのである。  五十歳を越えた内供は、沙弥の昔から、内道場供奉の職に陞った今日まで、内心では始終この鼻を苦に病んで来た。勿論表面では、今でもさほど気にならないような顔をしてすましている。これは専念に当来の浄土を渇仰すべき僧侶の身で、鼻の心配をするのが悪いと思ったからばかりではない。それよりむしろ、自分で鼻を気にしていると云う事を、人に知られるのが嫌だったからである。内供は日常の談話の中に、鼻と云う語が出て来るのを何よりも惧れていた。  内供...
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1997(平成9)年4月15日第14刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 初出:「新思潮」    1916(大正5)年2月 入力:平山誠、野口英司 校正:もりみつじゅんじ 1997年11月4日公開 2011年5月21日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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        一  部屋の隅に据えた姿見には、西洋風に壁を塗った、しかも日本風の畳がある、――上海特有の旅館の二階が、一部分はっきり映っている。まずつきあたりに空色の壁、それから真新しい何畳かの畳、最後にこちらへ後を見せた、西洋髪の女が一人、――それが皆冷やかな光の中に、切ないほどはっきり映っている。女はそこにさっきから、縫物か何かしているらしい。  もっとも後は向いたと云う条、地味な銘仙の羽織の肩には、崩れかかった前髪のはずれに、蒼白い横顔が少し見える。勿論肉の薄い耳に、ほんのり光が透いたのも見える。やや長めな揉み上げの毛が、かすかに耳の根をぼかしたのも見える。  この姿見のある部屋には、隣室の赤児の啼き声のほかに、何一つ沈黙...
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年1月27日第1刷発行    1996(平成8)年7月15日第8刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:もりみつじゅんじ 1999年3月1日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000041", "作品名": "母", "作品名読み": "はは", "ソート用読み": "はは", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1921(大正10)年9月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-03-01T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card41.html", "人物ID": "00087...
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        一  ある花曇りの朝だった。広子は京都の停車場から東京行の急行列車に乗った。それは結婚後二年ぶりに母親の機嫌を伺うためもあれば、母かたの祖父の金婚式へ顔をつらねるためもあった。しかしまだそのほかにもまんざら用のない体ではなかった。彼女はちょうどこの機会に、妹の辰子の恋愛問題にも解決をつけたいと思っていた。妹の希望をかなえるにしろ、あるいはまたかなえないにしろ、とにかくある解決だけはつけなければならぬと思っていた。  この問題を広子の知ったのは四五日前に受け取った辰子の手紙を読んだ時だった。広子は年ごろの妹に恋愛問題の起ったことは格別意外にも思わなかった。予期したと言うほどではなかったにしろ、当然とは確かに思っていた...
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月5日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000045", "作品名": "春", "作品名読み": "はる", "ソート用読み": "はる", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1923(大正12)年9月、1925(大正14)年4月「女性」", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-05T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card45.htm...
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 春の日のさした往来をぶらぶら一人歩いてゐる。向うから来るのは屋根屋の親かた。屋根屋の親かたもこの節は紺の背広に中折帽をかぶり、ゴムか何かの長靴をはいてゐる。それにしても大きい長靴だなあ。膝――どころではない。腿も半分がたは隠れてゐる。ああ云ふ長靴をはいた時には、長靴をはいたと云ふよりも、何かの拍子に長靴の中へ落つこつたやうな気がするだらうなあ。  顔馴染の道具屋を覗いて見る。正面の紅木の棚の上に虫明けらしい徳利が一本。あの徳利の口などは妙に猥褻に出来上つてゐる。さうさう、いつか見た古備前の徳利の口もちよいと接吻位したかつたつけ。鼻の先に染めつけの皿が一枚。藍色の柳の枝垂れた下にやはり藍色の人が一人、莫迦に長い釣竿を伸ばしてゐる。誰...
底本:「芥川龍之介全集 第十一巻」岩波書店    1996(平成8)年9月9日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:松永正敏 2002年5月17日作成 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "004281", "作品名": "春の日のさした往来をぶらぶら一人歩いてゐる", "作品名読み": "はるのひのさしたおうらいをぶらぶらひとりあるいている", "ソート用読み": "はるのひのさしたおうらいをふらふらひとりあるいている", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-10-06T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozor...
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一  僕はコンクリイトの建物の並んだ丸の内の裏通りを歩いてゐた。すると何か匀を感じた。何か、?――ではない。野菜サラドの匀である。僕はあたりを見まはした。が、アスフアルトの往来には五味箱一つ見えなかつた。それは又如何にも春の夜らしかつた。 二  U――「君は夜は怖くはないかね?」  僕――「格別怖いと思つたことはない。」  U――「僕は怖いんだよ。何だか大きい消しゴムでも噛んでゐるやうな気がするからね。」  これも、――このUの言葉もやはり如何にも春の夜らしかつた。 三  僕は支那の少女が一人、電車に乗るのを眺めてゐた。それは季節を破壊する電燈の光の下だつたにもせよ、実際春の夜に違ひなかつた。少女は僕に後ろを向け、電車のス...
底本:「芥川龍之介作品集第四巻」昭和出版社    1965(昭和40)年12月20日発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月27日公開 2010年11月27日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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 これは近頃Nさんと云う看護婦に聞いた話である。Nさんは中々利かぬ気らしい。いつも乾いた唇のかげに鋭い犬歯の見える人である。  僕は当時僕の弟の転地先の宿屋の二階に大腸加答児を起して横になっていた。下痢は一週間たってもとまる気色は無い。そこで元来は弟のためにそこに来ていたNさんに厄介をかけることになったのである。  ある五月雨のふり続いた午後、Nさんは雪平に粥を煮ながら、いかにも無造作にその話をした。        ×          ×          ×  ある年の春、Nさんはある看護婦会から牛込の野田と云う家へ行くことになった。野田と云う家には男主人はいない。切り髪にした女隠居が一人、嫁入り前の娘が一人、そのまた娘の弟...
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年2月1日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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 東京帝国法科大学教授、長谷川謹造先生は、ヴエランダの籐椅子に腰をかけて、ストリントベルクの作劇術を読んでゐた。  先生の専門は、植民政策の研究である。従つて読者には、先生がドラマトウルギイを読んでゐると云ふ事が、聊、唐突の感を与へるかも知れない。が、学者としてのみならず、教育家としても、令名ある先生は、専門の研究に必要でない本でも、それが何等かの意味で、現代学生の思想なり、感情なりに、関係のある物は、暇のある限り、必一応は、眼を通して置く。現に、昨今は、先生の校長を兼ねてゐる或高等専門学校の生徒が、愛読すると云ふ、唯、それだけの理由から、オスカア・ワイルドのデ・プロフンデイスとか、インテンシヨンズとか云ふ物さへ、一読の労を執つた。...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:柳沢成雄 1998年9月14日公開 2004年3月16日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000043", "作品名": "手巾", "作品名読み": "ハンケチ", "ソート用読み": "はんけち", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1916(大正5)年10月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-09-14T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card43.html", "人物ID": "...
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 或雨のふる秋の日、わたしは或人を訪ねる為に横浜の山手を歩いて行つた。この辺の荒廃は震災当時と殆ど変つてゐなかつた。若し少しでも変つてゐるとすれば、それは一面にスレヱトの屋根や煉瓦の壁の落ち重なつた中に藜の伸びてゐるだけだつた。現に或家の崩れた跡には蓋をあけた弓なりのピアノさへ、半ば壁にひしがれたまゝ、つややかに鍵盤を濡らしてゐた。のみならず大小さまざまの譜本もかすかに色づいた藜の中に桃色、水色、薄黄色などの横文字の表紙を濡らしてゐた。  わたしはわたしの訪ねた人と或こみ入つた用件を話した。話は容易に片づかなかつた。わたしはとうとう夜に入つた後、やつとその人の家を辞することにした。それも近近にもう一度面談を約した上のことだつた。  ...
底本:「芥川龍之介全集 第十二巻」岩波書店    1996(平成8)年10月8日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:松永正敏 2002年5月17日作成 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "001130", "作品名": "ピアノ", "作品名読み": "ピアノ", "ソート用読み": "ひあの", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新小説」1925(大正14)年5月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-10-09T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card1130.html", "人物ID": "...
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 僕が大学を卒業した年の夏、久米正雄と一緒に上総の一ノ宮の海岸に遊びに行つた。それは遊びに行つたといつても、本を読んだり、原稿を書いたりしてゐたには違ひないが、まあ一日の大部分は海にはひつたり、散歩したりして暮してゐた。  或暮方、僕等は一ノ宮の町へ散歩に行き、もう人の顔も見えない頃、ぶらぶら宿の方へ帰つて来た。道は宿へ辿り着くためには、弘法麦や防風の生えた砂山を一つ越えなければならぬ。丁度、その砂山の上に来た時、久米は何か叫ぶが早いか一目散に砂山を駆け降りて行つた。僕はどうしたのだかわからなかつたが、兎に角、何か駆けなければならぬ必要があるのだらうと思つたから、矢張、その後から駆け出すことにした。それは人目のない砂山の上に、たつた...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003821", "作品名": "微笑", "作品名読み": "びしょう", "ソート用読み": "ひしよう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-31T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3821.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川...
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 尾生は橋の下に佇んで、さっきから女の来るのを待っている。  見上げると、高い石の橋欄には、蔦蘿が半ば這いかかって、時々その間を通りすぎる往来の人の白衣の裾が、鮮かな入日に照らされながら、悠々と風に吹かれて行く。が、女は未だに来ない。  尾生はそっと口笛を鳴しながら、気軽く橋の下の洲を見渡した。  橋の下の黄泥の洲は、二坪ばかりの広さを剰して、すぐに水と続いている。水際の蘆の間には、大方蟹の棲家であろう、いくつも円い穴があって、そこへ波が当る度に、たぶりと云うかすかな音が聞えた。が、女は未だに来ない。  尾生はやや待遠しそうに水際まで歩を移して、舟一艘通らない静な川筋を眺めまわした。  川筋には青い蘆が、隙間もなくひしひしと生えてい...
底本:「芥川龍之介全集3」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年12月1日第1刷発行    1996(平成8)年4月1日第8刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月8日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000024", "作品名": "尾生の信", "作品名読み": "びせいのしん", "ソート用読み": "ひせいのしん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央文学」1920(大正9)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card24.html", "人物I...
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      序文  人及び詩人としての薄田泣菫氏を論じたものは予の著述を以て嚆矢とするであらう。只不幸にも「サンデイ毎日」の紙面の制限を受ける為に多少の省略を加へたのは頗る遺――序文以下省略。       第一部 人としての薄田泣菫氏         一 薄田泣菫氏の伝記 「泣菫詩集」の巻末の「詩集の後に」の示してゐる通り、薄田泣菫氏は備中の国の人である。試みに備中の国の地図を開いて見れば――一以下省略。         二 薄田泣菫氏の性行  薄田泣菫氏の「茶話」は如何に薄田氏の諧謔に富み、皮肉に長じてゐるかを語つてゐる。この天成の諷刺家に一篇の諷刺詩もなかつたのは殆ど奇蹟と言は――二以下省略。         三 ...
底本:「芥川龍之介全集 第十二巻」岩波書店    1996(平成8)年10月8日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:松永正敏 2002年5月17日作成 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "004304", "作品名": "人及び芸術家としての薄田泣菫氏", "作品名読み": "ひとおよびげいじゅつかとしてのすすきだきゅうきんし", "ソート用読み": "ひとおよひけいしゆつかとしてのすすきたきゆうきんし", "副題": "薄田泣菫氏及び同令夫人に献ず", "副題読み": "すすきだきゅうきんしおよびどうれいふじんにけんず", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-10-09T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", ...
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 お住の倅に死別れたのは茶摘みのはじまる時候だつた。倅の仁太郎は足かけ八年、腰ぬけ同様に床に就いてゐた。かう云ふ倅の死んだことは「後生よし」と云はれるお住にも、悲しいとばかりは限らなかつた。お住は仁太郎の棺の前へ一本線香を手向けた時には、兎に角朝比奈の切通しか何かをやつと通り抜けたやうな気がしてゐた。  仁太郎の葬式をすました後、まづ問題になつたものは嫁のお民の身の上だつた。お民には男の子が一人あつた。その上寝てゐる仁太郎の代りに野良仕事も大抵は引受けてゐた。それを今出すとすれば、子供の世話に困るのは勿論、暮しさへ到底立ちさうにはなかつた。かたがたお住は四十九日でもすんだら、お民に壻を当がつた上、倅のゐた時と同じやうに働いて貰はうと...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月16日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000171", "作品名": "一塊の土", "作品名読み": "ひとくれのつち", "ソート用読み": "ひとくれのつち", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1924(大正13)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-16T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card171.html", "人...
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 或る一つの作品を書かうと思つて、それが色々の径路を辿つてから出来上がる場合と、直ぐ初めの計画通りに書き上がる場合とがある。例へば最初は土瓶を書かうと思つてゐて、それが何時の間にか鉄瓶に出来上がることもあり、又初めから土瓶を書かうと思ふと土瓶がそのまま出来上がることもある。その土瓶にしても蔓を籐にしようと思つてゐたのが竹になつたりすることもある。私の作品の名を上げて言へば「羅生門」などはその前者であり、今ここに話さうと思ふ「枯野抄」「奉教人の死」などはその後者である。  その「枯野抄」といふ小説は、芭蕉翁の臨終に会つた弟子達、其角、去来、丈艸などの心持を描いたものである。それを書く時は「花屋日記」といふ芭蕉の臨終を書いた本や、支考だ...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003754", "作品名": "一つの作が出来上るまで", "作品名読み": "ひとつのさくができあがるまで", "ソート用読み": "ひとつのさくかてきあかるまて", "副題": "――「枯野抄」――「奉教人の死」――", "副題読み": "――「かれのしょう」――「ほうきょうにんのし」――", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-31T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://...
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 七八年前のことです。加賀でしたか能登でしたか、なんでも北国の方の同人雑誌でした。今では、その雑誌の名も覚えて居ませんが、平家物語に主題を取つて書いた小説の載つてゐるのを見たことがあります。その作者は、おそらく青年だつたらうと思ひます。  その小説は、三回に分れて居りました。  一は、平家物語の作者が、大原御幸のところへ行つて、少しも筆が進まなくなつて、困り果てて居るところで、そのうち、突然、インスピレエシヨンを感じて、――甍破れては霧不断の香を焚き、枢落ちては月常住の灯を挑ぐ――と、云ふところを書くところが、書いてありました。  それから二は、平家物語の註釈者のことで、この註釈者が、今引用した――甍破れては……のところへ来て、その...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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箱を出る顔忘れめや雛二対  蕪村  これは或老女の話である。  ……横浜の或亜米利加人へ雛を売る約束の出来たのは十一月頃のことでございます。紀の国屋と申したわたしの家は親代々諸大名のお金御用を勤めて居りましたし、殊に紫竹とか申した祖父は大通の一人にもなつて居りましたから、雛もわたしのではございますが、中々見事に出来て居りました。まあ、申さば、内裏雛は女雛の冠の瓔珞にも珊瑚がはひつて居りますとか、男雛の塩瀬の石帯にも定紋と替へ紋とが互違ひに繍ひになつて居りますとか、さう云ふ雛だつたのでございます。  それさへ売らうと申すのでございますから、わたしの父、十二代目の紀の国屋伊兵衛はどの位手もとが苦しかつたか、大抵御推量にもなれるでござ...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:福地博文 1998年11月7日公開 2004年3月16日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000047", "作品名": "雛", "作品名読み": "ひな", "ソート用読み": "ひな", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1923(大正12)年3月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-11-07T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card47.html", "人物ID": "00087...
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 一、病中閑なるを幸ひ、諸雑誌の小説を十五篇ばかり読む。滝井君の「ゲテモノ」同君の作中にても一頭地を抜ける出来栄えなり。親父にも、倅にも、風景にも、朴にして雅を破らざること、もろこしの餅の如き味はひありと言ふべし。その手際の鮮かなるは恐らくは九月小説中の第一ならん乎。  二、里見君の「蚊遣り」も亦十月小説中の白眉なり。唯聊か末段に至つて落筆匇匇の憾みあらん乎。他は人情的か何か知らねど、不相変巧手の名に背かずと言ふべし。  三、旅に病めることは珍らしからず。(今度も軽井沢の寐冷えを持ち越せるなり。)但し最も苦しかりしは丁度支那へ渡らんとせる前、下の関の宿屋に倒れし時ならん。この時も高が風邪なれど、東京、大阪、下の関と三度目のぶり返しな...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003780", "作品名": "病牀雑記", "作品名読み": "びょうしょうざっき", "ソート用読み": "ひようしようさつき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-31T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3780.html", "人物ID": "00087...
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 一 毎年一二月の間になれば、胃を損じ、腸を害し、更に神経性狭心症に罹り、鬱々として日を暮らすこと多し。今年も亦その例に洩れず。ぼんやり置炬燵に当りをれば、気違ひになる前の心もちはかかるものかとさへ思ふことあり。  二 僕の神経衰弱の最も甚しかりしは大正十年の年末なり。その時には眠りに入らんとすれば、忽ち誰かに名前を呼ばるる心ちし、飛び起きたることも少からず。又古き活動写真を見る如く、黄色き光の断片目の前に現れ、「おや」と思ひしことも度たびあり。十一年の正月、ふと僕に会ひて「死相がある」と言ひし人ありしが、まことにそんな顔をしてをりしなるべし。  三 「墨汁一滴」や「病牀六尺」に「脳病を病み」云々とあるは神経衰弱のことなるべし。...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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 吾妻橋の欄干によって、人が大ぜい立っている。時々巡査が来て小言を云うが、すぐまた元のように人山が出来てしまう。皆、この橋の下を通る花見の船を見に、立っているのである。  船は川下から、一二艘ずつ、引き潮の川を上って来る。大抵は伝馬に帆木綿の天井を張って、そのまわりに紅白のだんだらの幕をさげている。そして、舳には、旗を立てたり古風な幟を立てたりしている。中にいる人間は、皆酔っているらしい。幕の間から、お揃いの手拭を、吉原かぶりにしたり、米屋かぶりにしたりした人たちが「一本、二本」と拳をうっているのが見える。首をふりながら、苦しそうに何か唄っているのが見える。それが橋の上にいる人間から見ると、滑稽としか思われない。お囃子をのせたり楽隊...
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1995(平成7)年10月5日第13刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:earthian 1998年11月11日公開 2004年3月8日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000054", "作品名": "ひょっとこ", "作品名読み": "ひょっとこ", "ソート用読み": "ひよつとこ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「帝国文学」1915(大正4)年4月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-11-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card54.html", "人物ID...
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 国民文庫刊行会の「世界名作大観」の第一部の十六冊の――どうも少し長い。が、兎に角国民文庫刊行会の「世界名作大観」の第一部の十六冊の大部分は平田禿木先生の翻訳である。平田先生にはまだ一度しか御目にかかつたことはない。が、好男子で、もの優しくて、美しい声をしてゐて――要するに如何にも往年の「文学界」同人の一人らしい、甚だ瀟洒とした先生である。この瀟洒とした先生が国民文庫刊行会の「世界名作大観」の第一部の十六冊の大部分を翻訳したと言ふことは少くとも僕には神秘だつた。元来瀟洒としたなどと言ふ感じは精力を想はせるものではない。しかし平田先生の翻訳を見れば、デイケンズ、サツカレエ、ラム、メレデイス、ジエエムス、ハアデイイ、ワイルド、コンラツド...
底本:「芥川龍之介全集 第十二巻」岩波書店    1996(平成8)年10月8日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:松永正敏 2002年5月17日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "004303", "作品名": "平田先生の翻訳", "作品名読み": "ひらたせんせいのほんやく", "ソート用読み": "ひらたせんせいのほんやく", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-10-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card4303.html", "人物ID...
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 僕は鼠になつて逃げるらあ。  ぢや、お父さんは猫になるから好い。  そうすりやこつちは熊になつちまふ。  熊になりや虎になつて追つかけるぞ。  何だ、虎なんぞ。ライオンになりや何でもないや。  ぢやお父さんは龍になつてライオンを食つてしまふ。  龍?(少し困つた顔をしてゐたが、突然)好いや、僕はスサノヲ尊になつて退治しちまふから。
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003791", "作品名": "比呂志との問答", "作品名読み": "ひろしとのもんどう", "ソート用読み": "ひろしとのもんとう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 916", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-31T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3791.html", "人物ID": "00...
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「貴君の作品の中で、愛着を持つてゐらつしやるものか、好きなものはありませんか」と云はれると、一寸困る。さういふ条件の小説を特別に選り出す事は出来ないし、又特別に取扱はなくてはならない小説があるとも思へない。第一、自分の小説といふものを考へた時に、その沢山な小説の行列の中から、特に、私が小説で御座ると名乗つて飛び出して来るものも見当らない。かう云ひ切つて了ふと、折角の御尋ねに対する御返事にはならないから、さう大袈裟な問題として取扱はないで、僕の書いた小説の中で、一寸風変りなものを二つ抜き出して見ることにする。  自分の小説は大部分、現代普通に用ひられてゐる言葉で書いたものである。例外として、「奉教人の死」と「きりしとほろ上人伝」とがそ...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003781", "作品名": "風変りな作品に就いて", "作品名読み": "ふうがわりなさくひんについて", "ソート用読み": "ふうかわりなさくひんについて", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-31T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3781.html"...
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 僕は籐の長椅子にぼんやり横になっている。目の前に欄干のあるところをみると、どうも船の甲板らしい。欄干の向うには灰色の浪に飛び魚か何か閃いている。が、何のために船へ乗ったか、不思議にもそれは覚えていない。つれがあるのか、一人なのか、その辺も同じように曖昧である。  曖昧と云えば浪の向うも靄のおりているせいか、甚だ曖昧を極めている。僕は長椅子に寝ころんだまま、その朦朧と煙った奥に何があるのか見たいと思った。すると念力の通じたように、見る見る島の影が浮び出した。中央に一座の山の聳えた、円錐に近い島の影である。しかし大体の輪郭のほかは生憎何もはっきりとは見えない。僕は前に味をしめていたから、もう一度見たいと念じて見た。けれども薄い島の影は...
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月10日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000052", "作品名": "不思議な島", "作品名読み": "ふしぎなしま", "ソート用読み": "ふしきなしま", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「随筆」1924(大正13)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-10T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card52.html", "人物I...
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     名士と家  夏目先生の家が売られると云ふ。ああ云ふ大きな家は保存するのに困る。  書斎は二間だけよりないのだから、あの家と切り離して保存する事も出来ない事はないが、兎に角相当な人程小さい家に住むとか、或は離れの様な所に住んでゐる方が、あとで保存する場合など始末がよい。      帽子を追つかける  道を歩いてゐる時、ふいに風が吹いて帽子が飛ぶ。自分の周囲の凡てに対して意識的になつて帽子を追つかける。だから中々帽子は手に這入らない。  他の一人は帽子が飛ぶと同時に飛んだ帽子の事だけ考へて、夢中になつてその後を追ふ。自転車にぶつかる。自動車に轢かれかかる。荷馬車の土方に怒鳴られる――その間に帽子は風の方向に走つてゆく。か...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003785", "作品名": "拊掌談", "作品名読み": "ふしょうだん", "ソート用読み": "ふしようたん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-07-31T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3785.html", "人物ID": "000879", "姓"...
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 ある機会で、予は下に掲げる二つの手紙を手に入れた。一つは本年二月中旬、もう一つは三月上旬、――警察署長の許へ、郵税先払いで送られたものである。それをここへ掲げる理由は、手紙自身が説明するであろう。      第一の手紙  ――警察署長閣下、  先ず何よりも先に、閣下は私の正気だと云う事を御信じ下さい。これ私があらゆる神聖なものに誓って、保証致します。ですから、どうか私の精神に異常がないと云う事を、御信じ下さい。さもないと、私がこの手紙を閣下に差上げる事が、全く無意味になる惧があるのでございます。そのくらいなら、私は何を苦しんで、こんな長い手紙を書きましょう。  閣下、私はこれを書く前に、ずいぶん躊躇致しました。何故かと申します...
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1995(平成7)年10月5日第13刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月6日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000165", "作品名": "二つの手紙", "作品名読み": "ふたつのてがみ", "ソート用読み": "ふたつのてかみ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「黒潮」1917(大正6)年9月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-06T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card165.html", "人...
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        一  小野の小町、几帳の陰に草紙を読んでいる。そこへ突然黄泉の使が現れる。黄泉の使は色の黒い若者。しかも耳は兎の耳である。  小町 (驚きながら)誰です、あなたは?  使 黄泉の使です。  小町 黄泉の使! ではもうわたしは死ぬのですか? もうこの世にはいられないのですか? まあ、少し待って下さい。わたしはまだ二十一です。まだ美しい盛りなのです。どうか命は助けて下さい。  使 いけません。わたしは一天万乗の君でも容赦しない使なのです。  小町 あなたは情を知らないのですか? わたしが今死んで御覧なさい。深草の少将はどうするでしょう? わたしは少将と約束しました。天に在っては比翼の鳥、地に在っては連理の枝、――ああ、...
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月10日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000086", "作品名": "二人小町", "作品名読み": "ふたりこまち", "ソート用読み": "ふたりこまち", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「サンデー毎日」1923(大正12)年3月", "分類番号": "NDC 912", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-10T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card86.html", "...
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 ピカソはいつも城を攻めてゐる。ジアン・ダアクでなければ破れない城を。彼は或はこの城の破れないことを知つてゐるかも知れない。が、ひとり石火矢の下に剛情にもひとり城を攻めてゐる。かう云ふピカソを去つてマテイスを見る時、何か氣易さを感じるのは必しも僕一人ではあるまい。マテイスは海にヨツトを走らせてゐる。武器の音や煙硝の匂はそこからは少しも起つて來ない。唯桃色に白の縞のある三角の帆だけ風を孕んでゐる。僕は偶然この二人の畫を見、ピカソに同情を感ずると同時にマテイスには親しみや羨ましさを感じた。マテイスは僕等素人の目にもリアリズムに叩きこんだ腕を持つてゐる。その又リアリズムに叩きこんだ腕はマテイスの畫に精彩を與へてゐるものの、時々畫面の裝飾的...
底本:「芥川龍之介全集 第九卷」岩波書店    1978(昭和53)年4月24日発行 底本の親本:「文藝春秋 第五年第六號」文藝春秋社    1927(昭和2)年6月1日発行 初出:「文藝春秋 第五年第六號」文藝春秋社    1927(昭和2)年6月1日発行 入力:佐藤茂男 校正:友理 2021年6月28日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "059228", "作品名": "二人の紅毛画家", "作品名読み": "ふたりのこうもうがか", "ソート用読み": "ふたりのこうもうかか", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「文藝春秋\u3000第五年第六號」文藝春秋社、1927(昭和2)年6月1日", "分類番号": "NDC 723", "文字遣い種別": "旧字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2021-07-24T00:00:00", "最終更新日": "2021-06-28T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/...
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 僕は一高へはひつた時、福間先生に独逸語を学んだ。福間先生は鴎外先生の「二人の友」の中のF君である。「二人の友」は当時はまだ活字になつてはいなかつたであらう。少くとも僕などのそんなことを全然知らなかつたのは確かである。  福間先生は常人よりも寧ろ背は低かつたであらう。何でも金縁の近眼鏡をかけ、可成長い口髭を蓄へてゐられたやうに覚えてゐる。  僕等は皆福間先生に或親しみを抱いてゐた。それは先生も青年のやうに諧謔を好んでゐられたからである。先生は一学期の或時間に久米正雄にかう言はれた。 「君にはこの言葉の意味がクメとれないんですか?」  久米も亦忽ち洒落を以て酬いた。 「ええ、ちよつとわかりません。どう言ふ意味がフクマつてゐるか」  福...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003822", "作品名": "二人の友", "作品名読み": "ふたりのとも", "ソート用読み": "ふたりのとも", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-03T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3822.html", "人物ID": "000879", "姓...
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       一  明治十九年十一月三日の夜であつた。当時十七歳だつた――家の令嬢明子は、頭の禿げた父親と一しよに、今夜の舞踏会が催さるべき鹿鳴館の階段を上つて行つた。明い瓦斯の光に照らされた、幅の広い階段の両側には、殆人工に近い大輪の菊の花が、三重の籬を造つてゐた。菊は一番奥のがうす紅、中程のが濃い黄色、一番前のがまつ白な花びらを流蘇の如く乱してゐるのであつた。さうしてその菊の籬の尽きるあたり、階段の上の舞踏室からは、もう陽気な管絃楽の音が、抑へ難い幸福の吐息のやうに、休みなく溢れて来るのであつた。  明子は夙に仏蘭西語と舞踏との教育を受けてゐた。が、正式の舞踏会に臨むのは、今夜がまだ生まれて始めてであつた。だから彼女は馬車の中...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:野口英司 1998年3月23日公開 2004年3月16日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000028", "作品名": "舞踏会", "作品名読み": "ぶとうかい", "ソート用読み": "ふとうかい", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1920(大正9)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-03-24T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card28.html", "人物ID": "...
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 これは日比谷公園のベンチの下に落ちていた西洋紙に何枚かの文放古である。わたしはこの文放古を拾った時、わたし自身のポケットから落ちたものとばかり思っていた。が、後に出して見ると、誰か若い女へよこした、やはり誰か若い女の手紙だったことを発見した。わたしのこう云う文放古に好奇心を感じたのは勿論である。のみならず偶然目についた箇所は余人は知らずわたし自身には見逃しのならぬ一行だった。―― 「芥川龍之介と来た日には大莫迦だわ。」!  わたしはある批評家の云ったように、わたしの「作家的完成を棒にふるほど懐疑的」である。就中わたし自身の愚には誰よりも一層懐疑的である。「芥川龍之介と来た日には大莫迦だわ!」何と云うお転婆らしい放言であろう。わたし...
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月8日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000051", "作品名": "文放古", "作品名読み": "ふみほご", "ソート用読み": "ふみほこ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「婦人公論」1924(大正13)年5月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card51.html", "人物ID": ...
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 僕は重い外套にアストラカンの帽をかぶり、市ヶ谷の刑務所へ歩いて行った。僕の従兄は四五日前にそこの刑務所にはいっていた。僕は従兄を慰める親戚総代にほかならなかった。が、僕の気もちの中には刑務所に対する好奇心もまじっていることは確かだった。  二月に近い往来は売出しの旗などの残っていたものの、どこの町全体も冬枯れていた。僕は坂を登りながら、僕自身も肉体的にしみじみ疲れていることを感じた。僕の叔父は去年の十一月に喉頭癌のために故人になっていた。それから僕の遠縁の少年はこの正月に家出していた。それから――しかし従兄の収監は僕には何よりも打撃だった。僕は従兄の弟と一しょに最も僕には縁の遠い交渉を重ねなければならなかった。のみならずそれ等の事...
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:j.utiyama 校正:もりみつじゅんじ 1999年3月1日公開 2012年3月22日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランテ...
{"作品ID": "000053", "作品名": "冬", "作品名読み": "ふゆ", "ソート用読み": "ふゆ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-03-01T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card53.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名":...
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 僕は中学五年生の時に、ドオデエの「サッフォ」という小説の英訳を読んだ。もちろんどんな読み方をしたか、当てになったものではない。まあいいかげんに辞書を引いては、頁をはぐっていっただけであるが、ともかくそれが僕にとっては、最初に親しんだ仏蘭西小説だった。「サッフォ」には感心したかどうか、確かなことは覚えていない。ただあの舞踏会から帰るところに、明け方のパリの光景を描いた、たった五、六行の文章がある。それがうれしかったことだけは覚えている。  それからアナトオル・フランスの「タイス」という小説を読んだ。なんでもそのころ早稲田文学の新年号に、安成貞雄君が書いた紹介があったものだから、それを読むとすぐに丸善へ行って買って来たという記憶がある...
底本:「藪の中・将軍」角川文庫、角川書店    1969(昭和44)年5月30日改版初版発行    2009(平成21)年2月25日改版38版発行 ※底本巻末の編者による語注は省略しました。 入力:岡山勝美 校正:坂本真一 2017年1月12日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "056820", "作品名": "仏蘭西文学と僕", "作品名読み": "ふらんすぶんがくとぼく", "ソート用読み": "ふらんすふんかくとほく", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2017-03-01T00:00:00", "最終更新日": "2017-01-12T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card56820.html", "人物ID"...
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 こゝではプロレタリア文学の悪口をいふのではない。これを弁護しやうと思ふ。しかし私は一般にブルヂヨア作家と目されてゐる所より、お前などが弁護する必要がないといはれるかも知れない。  プロレタリア文学とは何であるか。これには色々の人がそれ〴〵異つた見解を述べてゐるが、私はプロレタリア文明の生んだ文学でブルヂヨア文明の生んだブルヂヨア文学と対比すべきものであると思ふ。しかし現在の社会にはプロレタリア文明は存しない故にその文明に依つて生れたプロレタリア文学はない筈である。故に何か外にあてはまるものはないかといへば、同じブルヂヨア文明の生んだ文芸の中の一つをプロレタリア文学と見ることであらう。でこゝに同じ文明の下にあつてもその作家次第で、プ...
底本:「芥川龍之介全集 第十二巻」岩波書店    1996(平成8)年10月8日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:松永正敏 2002年5月17日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "004302", "作品名": "プロレタリア文学論", "作品名読み": "プロレタリアぶんがくろん", "ソート用読み": "ふろれたりあふんかくろん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 901", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-10-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card4302.html", "人物...
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 私の家は代々お奥坊主だったのですが、父も母もはなはだ特徴のない平凡な人間です。父には一中節、囲碁、盆栽、俳句などの道楽がありますが、いずれもものになっていそうもありません。母は津藤の姪で、昔の話をたくさん知っています。そのほかに伯母が一人いて、それが特に私のめんどうをみてくれました。今でもみてくれています。家じゅうで顔がいちばん私に似ているのもこの伯母なら、心もちの上で共通点のいちばん多いのもこの伯母です。伯母がいなかったら、今日のような私ができたかどうかわかりません。  文学をやることは、誰も全然反対しませんでした。父母をはじめ伯母もかなり文学好きだからです。その代わり実業家になるとか、工学士になるとか言ったらかえって反対された...
底本:「羅生門・鼻・芋粥」角川文庫、角川書店    1950(昭和25)年10月20日初版発行    1985(昭和60)年11月10日改版38版発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月12日公開 2004年3月7日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000025", "作品名": "文学好きの家庭から", "作品名読み": "ぶんがくずきのかていから", "ソート用読み": "ふんかくすきのかていから", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「文章倶楽部」1918(大正7)年1月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-12T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/...
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 文芸上の作品を鑑賞する為には文芸的素質がなければなりません。文芸的素質のない人は如何なる傑作に親んでも、如何なる良師に従つても、やはり常に鑑賞上の盲人に了る外はないのであります。文芸と美術との相違はありますが、書画骨董を愛する富豪などにかう云ふ例の多いことは誰でも知つてゐる事実でありませう。しかし文芸的素質の有無と云ふことも程度によりけりでありますから、テエブルや椅子の有無のやうに判然ときめる訳には行かないのであります。たとへばわたし自身などはゲエテとかシエクスピイアと云ふ文豪なるものに比べれば、文芸的素質はないと言つてもよろしい。或はもつと下らぬ作家に比べても、ないに等しいかも知れません。けれども野田大塊先生あたりに比べれば、文...
底本:「芥川龍之介全集 第十一巻」岩波書店    1996(平成8)年9月9日発行 初出:「文芸講座 第二号、第五号、第一二号」文藝春秋    1924(大正13)年10月10日    1924(大正13)年11月30日    1925(大正14)年4月3日 入力:文子 校正:浅原庸子 2007年4月13日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "046227", "作品名": "文芸鑑賞講座", "作品名読み": "ぶんげいかんしょうこうざ", "ソート用読み": "ふんけいかんしようこうさ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「文芸講座\u3000第二号、第五号、第一二号」文藝春秋、1924(大正13)年10月10日、11月30日、1925(大正14)年4月3日", "分類番号": "NDC 901", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-05-24T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カ...
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     一 「話」らしい話のない小説  僕は「話」らしい話のない小説を最上のものとは思つてゐない。従つて「話」らしい話のない小説ばかり書けとも言はない。第一僕の小説も大抵は「話」を持つてゐる。デツサンのない画は成り立たない。それと丁度同じやうに小説は「話」の上に立つものである。(僕の「話」と云ふ意味は単に「物語」と云ふ意味ではない。)若し厳密に云ふとすれば、全然「話」のない所には如何なる小説も成り立たないであらう。従つて僕は「話」のある小説にも勿論尊敬を表するものである。「ダフニとクロオと」の物語以来、あらゆる小説或は叙事詩が「話」の上に立つてゐる以上、誰か「話」のある小説に敬意を表せずにゐられるであらうか? 「マダム・ボヴアリ...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年2月2日公開 2004年3月16日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000026", "作品名": "文芸的な、余りに文芸的な", "作品名読み": "ぶんげいてきな、あまりにぶんげいてきな", "ソート用読み": "ふんけいてきなあまりにふんけいてきな", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造」1927(昭和2)年4~8月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-02-02T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.j...
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「堀川さん。弔辞を一つ作ってくれませんか? 土曜日に本多少佐の葬式がある、――その時に校長の読まれるのですが、……」  藤田大佐は食堂を出しなにこう保吉へ話しかけた。堀川保吉はこの学校の生徒に英吉利語の訳読を教えている。が、授業の合い間には弔辞を作ったり、教科書を編んだり、御前講演の添削をしたり、外国の新聞記事を翻訳したり、――そう云うことも時々はやらなければならぬ。そう云うことをまた云いつけるのはいつもこの藤田大佐である。大佐はやっと四十くらいであろう。色の浅黒い、肉の落ちた、神経質らしい顔をしている。保吉は大佐よりも一足あとに薄暗い廊下を歩みながら、思わず「おや」と云う声を出した。 「本多少佐は死なれたんですか?」  大佐も「お...
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月8日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000027", "作品名": "文章", "作品名読み": "ぶんしょう", "ソート用読み": "ふんしよう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「女性」1924(大正13)年4月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card27.html", "人物ID": "...
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     文章  僕に「文章に凝りすぎる。さう凝るな」といふ友だちがある。僕は別段必要以上に文章に凝つた覚えはない。文章は何よりもはつきり書きたい。頭の中にあるものをはつきり文章に現したい。僕は只それだけを心がけてゐる。それだけでもペンを持つて見ると、滅多にすらすら行つたことはない。必ずごたごたした文章を書いてゐる。僕の文章上の苦心といふのは(もし苦心といひ得るとすれば)そこをはつきりさせるだけである。他人の文章に対する注文も僕自身に対するのと同じことである。はつきりしない文章にはどうしても感心することは出来ない。少くとも好きになることは出来ない。つまり僕は文章上のアポロ主義を奉ずるものである。  僕は誰に何といはれても、方解石の...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003755", "作品名": "文章と言葉と", "作品名読み": "ぶんしょうとことばと", "ソート用読み": "ふんしようとことはと", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC K914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-03T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3755.html", "人物ID": "...
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       広告  この数篇の文章は何人かの人々を論じたものである。いや、それらの人々に対する僕の好悪を示したものである。  この数篇の文章の中に千古の鉄案を求めるのは勿論甚だ危険である。僕は少しも僕の批判の公平を誇らうとは思つてゐない。実際又公平なるものは生憎僕には恵まれてゐない、――と云ふよりも寧ろ恵まれることを潔しとしない美徳である。  この数篇の文章の中に謙譲の精神を求めるのはやはり甚だしい見当違ひである。あらゆる批判の芸術は謙譲の精神と両立しない。就中僕の文章は自負と虚栄心との吸ひ上げポンプである。  この数篇の文章の中に軽佻の態度を求めるのは最も無理解の甚だしいものである。僕は締切り日に間に合ふやうに、匆忙とペンを動...
底本:「芥川龍之介全集 第十一巻」岩波書店    1996(平成8)年9月9日発行 初出:広告、斎藤茂吉「女性改造 第三巻第三号」    1924(大正13)年3月1日発行    岩見重太郎「女性改造 第三巻第四号」    1924(大正13)年4月1日発行    木村巽斎「女性改造 第三巻第八号、第三巻第九号」    1924(大正13)年8月1日、9月1日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:土屋隆 2008年12月9日作成 2009年12月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランテ...
{"作品ID": "016033", "作品名": "僻見", "作品名読み": "へきけん", "ソート用読み": "へきけん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "広告、斎藤茂吉「女性改造\u3000第三巻第三号」1924(大正13)年3月1日、岩見重太郎「女性改造\u3000第三巻第四号」1924(大正13)年4月1日、木村巽斎「女性改造\u3000第三巻第八号、第三巻第九号」1924(大正13)年8月1日、9月1日", "分類番号": "NDC 910", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2009-01-21T00:00:0...
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一 雍和宮  今日も亦中野江漢君につれられ、午頃より雍和宮一見に出かける。喇嘛寺などに興味も何もなけれど、否、寧ろ喇嘛寺などは大嫌いなれど、北京名物の一つと言えば、紀行を書かされる必要上、義理にも一見せざる可らず。我ながら御苦労千万なり。  薄汚い人力車に乗り、やっと門前に辿りついて見れば、成程大伽藍には違いなし。尤も大伽藍などと言えば、大きいお堂が一つあるようなれど、この喇嘛寺は中々そんなものにあらず。永祐殿、綏成殿、天王殿、法輪殿などと云う幾つものお堂の寄り合い世帯なり。それも日本のお寺とは違い、屋根は黄色く、壁は赤く、階段は大理石を用いたる上、石の獅子だの、青銅の惜字塔だの(支那人は文字を尊ぶ故、文字を書きたる紙を拾えば、こ...
底本:「上海游記・江南游記」講談社文芸文庫、講談社    2001(平成13)年10月10日第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第十二巻」岩波書店    1996(平成8)年10月8日発行 ※()内の編者による注記は省略しました。 入力:門田裕志 校正:岡山勝美 2015年2月28日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "051217", "作品名": "北京日記抄", "作品名読み": "ぺきんにっきしょう", "ソート用読み": "へきんにつきしよう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 915", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2015-03-31T00:00:00", "最終更新日": "2015-02-28T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card51217.html", "人物ID": "000...
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     変遷  万法の流転を信ずる僕と雖も、目前に世態の変遷を見ては多少の感慨なきを得ない。現にいつか垣の外に「茄子の苗や胡瓜の苗、……ヂギタリスの苗や高山植物の苗」と言ふ苗売りの声を聞いた時にはしみじみ時好の移つたことを感じた。が、更に驚いたのはこの頃ふと架上の書を縁側の日の光に曝した時である。僕は従来衣魚と言ふ虫は決して和本や唐本以外に食はぬものと信じてゐた。けれども千九百二十五年の衣魚は舶来本の背などにも穴をあけてゐる。僕はこの衣魚の跡を眺めた時に進化論を思ひ、ラマルクを思ひ、日本文化の上に起つた維新以後六十年の変遷を思つた。三十世紀の衣魚はことによると、樟脳やナフタリンも食ふかも知れない。      或抗議 「文壇に...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003777", "作品名": "変遷その他", "作品名読み": "へんせんそのた", "ソート用読み": "へんせんそのた", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-03T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3777.html", "人物ID": "000879",...
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     阿媽港甚内の話  わたしは甚内と云うものです。苗字は――さあ、世間ではずっと前から、阿媽港甚内と云っているようです。阿媽港甚内、――あなたもこの名は知っていますか? いや、驚くには及びません。わたしはあなたの知っている通り、評判の高い盗人です。しかし今夜参ったのは、盗みにはいったのではありません。どうかそれだけは安心して下さい。  あなたは日本にいる伴天連の中でも、道徳の高い人だと聞いています。して見れば盗人と名のついたものと、しばらくでも一しょにいると云う事は、愉快ではないかも知れません。が、わたしも思いのほか、盗みばかりしてもいないのです。いつぞや聚楽の御殿へ召された呂宋助左衛門の手代の一人も、確か甚内と名乗っていま...
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年1月27日第1刷発行    1993(平成5)年12月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月19日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000050", "作品名": "報恩記", "作品名読み": "ほうおんき", "ソート用読み": "ほうおんき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1922(大正11)年4月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-19T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card50.html", "人物ID"...
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たとひ三百歳の齢を保ち、楽しみ身に余ると云ふとも、未来永々の果しなき楽しみに比ぶれば、夢幻の如し。 ―慶長訳 Guia do Pecador― 善の道に立ち入りたらん人は、御教にこもる不可思議の甘味を覚ゆべし。 ―慶長訳 Imitatione Christi― 一  去んぬる頃、日本長崎の「さんた・るちや」と申す「えけれしや」(寺院)に、「ろおれんぞ」と申すこの国の少年がござつた。これは或年御降誕の祭の夜、その「えけれしや」の戸口に、餓ゑ疲れてうち伏して居つたを、参詣の奉教人衆が介抱し、それより伴天連の憐みにて、寺中に養はれる事となつたげでござるが、何故かその身の素性を問へば、故郷は「はらいそ」(天国)父の名は「でうす」(...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:八木正三 1998年6月14日公開 2010年11月4日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000049", "作品名": "奉教人の死", "作品名読み": "ほうきょうにんのし", "ソート用読み": "ほうきようにんのし", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「三田文学」1918(大正7)年9月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-06-14T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card49.html...
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          ◇  ポーとは、ヱドガー、アラン、ポーのことです。ポーは初めフランスに紹介された時分にはポーヱと呼ばれてゐました。英国人等にも、この読み方をするものがあります。けれども、ポーがたゞしいことは明かです。モ一つ名前についていへば、ヱドガーはいゝが、アランは決して彼が自ら持つてをつたものでないといふことです。つまり、アランだけは全然余計なものだといふことです。           ◇  ポーの父はヱドガー、デビツト、ポーといひ、ポーは二男でした。その父はポー等三人の子供を残して死んだのです。で已むを得ず、ポーはジヨン、アランといふ煙学者に養はれることになりました。がポーは間もなくそこを離れてしまつたのです。だから、ポー...
底本:「芥川龍之介全集 第十二巻」岩波書店    1996(平成8)年10月8日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:松永正敏 2002年5月17日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "004614", "作品名": "ポーの片影", "作品名読み": "ポーのへんえい", "ソート用読み": "ほおのへんえい", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-10-09T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card4614.html", "人物ID": "000879",...
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     1  小穴隆一君(特に「君」の字をつけるのも可笑しい位である)は僕よりも年少である。が、小穴君の仕事は凡庸ではない。若し僕の名も残るとすれば、僕の作品の作者としてよりも小穴君の装幀した本の作者として残るであらう。これは小穴君に媚びるのではない。世間にへり下つて見せるのではなほ更ない。造形美術と文芸との相違を勘定に入れて言ふのである。(文芸などと云ふものは、――殊に小説などと云ふものは三百年ばかりたつた後は滅多に通用するものではない。)しかし大地震か大火事かの為に小穴君の画も焼けてしまへば、今度は或は小穴君の名も僕との腐れ縁の為に残るであらう。  小穴君は神経質に徹してゐる。時々勇敢なことをしたり、或は又言つたりするものの...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003796", "作品名": "僕の友だち二三人", "作品名読み": "ぼくのともだちにさんにん", "ソート用読み": "ほくのともたちにさんにん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-03T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3796.html", "人物I...
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誰でもわたしのやうだらうか?――ジュウル・ルナアル  僕は屈辱を受けた時、なぜか急には不快にはならぬ。が、彼是一時間ほどすると、だんだん不快になるのを常としてゐる。      ×  僕はロダンのウゴリノ伯を見た時、――或はウゴリノ伯の写真を見た時、忽ち男色を思ひ出した。      ×  僕は樹木を眺める時、何か我々人間のやうに前後ろのあるやうに思はれてならぬ。      ×  僕は時々暴君になつて大勢の男女を獅子や虎に食はせて見たいと思ふことがある。が、膿盆の中に落ちた血だらけのガアゼを見ただけでも、肉体的に忽ち不快になつてしまふ。      ×  僕は度たび他人のことを死ねば善いと思つたことがある。その又死ねば善いと思つた中に...
底本:「芥川龍之介作品集第四巻」昭和出版社    1965(昭和40)年12月20日発行 ※底本の「羅馬字《ロオてじ》」は、「羅馬字《ロオマじ》」にあらためました。 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月27日公開 2003年10月20日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "002368", "作品名": "僕は", "作品名読み": "ぼくは", "ソート用読み": "ほくは", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「驢馬」1927(昭和2)年2月", "分類番号": "NDC 913 917", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-27T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card2368.html", "人物ID": ...
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       一 十七音  発句は十七音を原則としてゐる。十七音以外のものを発句と呼ぶのは、――或は新傾向の句と呼ぶのは短詩と呼ぶのの勝れるに若かない。(勿論かう言ふ短詩の作家、河東碧梧桐、中塚一碧楼、荻原井泉水等の諸氏の作品にも佳作のあることは事実である。)若し単に内容に即して、かう云ふ短詩を発句と呼ぶならば、発句は他の文芸的形式と、――たとへば漢詩などと異らないであらう。 初月波中上(勿論日本風に読むのである) 何遜 明月の波の中より上りけり 子規  単に内容に即すれば、子規居士の句は即ち何遜の詩である。同じく茶を飲むのに使ふとしても茶碗は畢に湯呑みではない。若し湯呑みを湯呑みたらしめるものを湯呑みと云ふ形式にありとすれば...
底本:「芥川龍之介全集 第十三巻」岩波書店    1996(平成8)年11月8日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:林 幸雄 2002年1月26日公開 2003年3月17日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "001136", "作品名": "発句私見", "作品名読み": "ほっくしけん", "ソート用読み": "ほつくしけん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「ホトトギス」1926(大正15)年7月", "分類番号": "NDC 911", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-01-26T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card1136.html", ...
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大溝  僕は本所界隈のことをスケッチしろという社命を受け、同じ社のO君と一しょに久振りに本所へ出かけて行った。今その印象記を書くのに当り、本所両国と題したのは或は意味を成していないかも知れない。しかしなぜか両国は本所区のうちにあるものの、本所以外の土地の空気も漂っていることは確かである。そこでO君とも相談の上、ちょっと電車の方向板じみた本所両国という題を用いることにした。――  僕は生れてから二十歳頃までずっと本所に住んでいた者である。明治二、三十年代の本所は今日のような工業地ではない。江戸二百年の文明に疲れた生活上の落伍者が比較的多勢住んでいた町である。従って何処を歩いて見ても、日本橋や京橋のように大商店の並んだ往来などはなかっ...
底本:「大東京繁昌記」毎日新聞社    1999(平成11)年5月15日 初出:「東京日日新聞」    1927(昭和2)年5月6日~22日 入力:門田裕志 校正:仙酔ゑびす 2013年5月11日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "055721", "作品名": "本所両国", "作品名読み": "ほんじょりょうごく", "ソート用読み": "ほんしよりようこく", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「東京日日新聞」1927(昭和2)年5月6日〜22日", "分類番号": "NDC 915", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2013-07-24T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-16T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card...
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「大溝」  僕は本所界隈のことをスケツチしろといふ社命を受け、同じ社のO君と一しよに久振りに本所へ出かけて行つた。今その印象記を書くのに当り、本所両国と題したのは或は意味を成してゐないかも知れない。しかしなぜか両国は本所区のうちにあるものの、本所以外の土地の空気も漂つてゐることは確かである。そこでO君とも相談の上、ちよつと電車の方向板じみた本所両国といふ題を用ひることにした。――  僕は生れてから二十歳頃までずつと本所に住んでゐた者である。明治二三十年代の本所は今日のやうな工業地ではない。江戸二百年の文明に疲れた生活上の落伍者が比較的大勢住んでゐた町である。従つて何処を歩いてみても、日本橋や京橋のやうに大商店の並んだ往来などはなか...
底本:「芥川龍之介全集 第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1971(昭和46)年10月5日初版第5刷発行 初出:「東京日日新聞」    1927(昭和2)年5、6月 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:j.utiyama 校正:もりみつじゅんじ 1999年8月23日公開 2012年3月22日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000048", "作品名": "本所両国", "作品名読み": "ほんじょりょうごく", "ソート用読み": "ほんしよりようこく", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「東京日日新聞」1927(昭和2)年5、6月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-08-23T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card48.h...
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     各国演劇史  僕は本が好きだから、本の事を少し書かう。僕の持つてゐる洋綴の本に、妙な演劇史が一冊ある。この本は明治十七年一月十六日の出版である。著者は東京府士族、警視庁警視属、永井徹と云ふ人である。最初の頁にある所蔵印を見ると、嘗は石川一口の蔵書だつたらしい。序文に、「夫演劇は国家の活歴史にして、文盲の早学問なり。故に欧洲進化の国に在ては、縉紳貴族皆之を尊重す。而してその隆盛に至りし所以のものは、有名の学士羅希に出て、之れが改良を謀るに由る。然るに吾邦の学者は夙に李園(原)を鄙み、措て顧みざるを以て、之を記するの書、未嘗多しとせず。即文化の一具を欠くものと謂可し。(中略)余茲に感ずる所あり。寸暇を得るの際、米仏等の書を繙...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003741", "作品名": "本の事", "作品名読み": "ほんのこと", "ソート用読み": "ほんのこと", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 019", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-03T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3741.html", "人物ID": "000879", "姓": ...
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     一 アダムとイヴと  小さい男の子と小さい女の子とが、アダムとイヴとの画を眺めてゐた。 「どつちがアダムでどつちがイヴだらう?」  さう一人が言つた。 「分らないな。着物着てれば分るんだけれども。」  他の一人が言つた。(Butler)      二 牧歌  わたしは或南伊太利亜人を知つてゐる。昔の希臘人の血の通つた或南伊太利亜人である。彼の子供の時、彼の姉が彼にお前は牝牛のやうな眼をしてゐると言つた。彼は絶望と悲哀とに狂ひながら、度々泉のあるところへ行つて其水に顔を写して見た。「自分の眼は、実際牝牛の眼のやうだらうか?」彼は恐る怖る自らに問うた。「ああ、悲しい事には、悲し過ぎる事には、牝牛の眼にそつくりだ。」彼はか...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003783", "作品名": "翻訳小品", "作品名読み": "ほんやくしょうひん", "ソート用読み": "ほんやくしようひん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 933", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-03T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3783.html", "人物ID": "00087...
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     ×  北原さん。 「アルス新聞」に子規のことを書けと云ふ仰せは確に拝誦しました。子規のことは仰せを受けずとも書きたいと思つてゐるのですが、今は用の多い為に到底書いてゐる暇はありません。が、何でも書けと云はれるなら、子規に関する夏目先生や大塚先生の談片を紹介しませう。これは子規を愛する人人には間に合せの子規論を聞かせられるよりも興味のあることと思ひますから。      × 「墨汁一滴」だか「病牀六尺」だかどちらだかはつきり覚えてゐません。しかし子規はどちらかの中に夏目先生と散歩に出たら、先生の稲を知らないのに驚いたと云ふことを書いてゐます。或時この稲の話を夏目先生の前へ持ち出すと、先生は「なに、稲は知つてゐた」と云ふの...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003765", "作品名": "正岡子規", "作品名読み": "まさおかしき", "ソート用読み": "まさおかしき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-03T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3765.html", "人物ID": "000879", "姓...
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 ある時雨の降る晩のことです。私を乗せた人力車は、何度も大森界隈の険しい坂を上ったり下りたりして、やっと竹藪に囲まれた、小さな西洋館の前に梶棒を下しました。もう鼠色のペンキの剥げかかった、狭苦しい玄関には、車夫の出した提灯の明りで見ると、印度人マティラム・ミスラと日本字で書いた、これだけは新しい、瀬戸物の標札がかかっています。  マティラム・ミスラ君と云えば、もう皆さんの中にも、御存じの方が少くないかも知れません。ミスラ君は永年印度の独立を計っているカルカッタ生れの愛国者で、同時にまたハッサン・カンという名高い婆羅門の秘法を学んだ、年の若い魔術の大家なのです。私はちょうど一月ばかり以前から、ある友人の紹介でミスラ君と交際していました...
底本:「芥川龍之介全集3」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年12月1日第1刷発行    1996(平成8)年4月1日第8刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月8日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000095", "作品名": "魔術", "作品名読み": "まじゅつ", "ソート用読み": "ましゆつ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「赤い鳥」1920(大正9)年1月", "分類番号": "NDC K913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card95.html", "人物ID": "0...
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 大衆文芸は小説と変りはない。西洋人が小説として通用させてゐるものにも大衆文芸的なものは沢山あるやうだ。唯僕は大衆文芸家が自ら大衆文芸家を以て任じてゐるのは考へものだと思つてゐる。その為に大衆文芸は興味本位――ならばまだしも好い。興味以外のものを求めないやうになるのは考へものだと思つてゐる。大衆文芸家ももつと大きい顔をして小説家の領分へ斬りこんで来るが好い。さもないと却つて小説家が(小説としての威厳を捨てずに)大衆文芸家の領分へ斬りこむかも知れぬ。都々逸は抒情詩的大衆文芸だ。北原白秋氏などの俚謡は抒情詩的小衆文芸だ。都々逸詩人を以て任じてゐては到底北原氏などに追ひつくものではない。次手に云ふ。今の小説が面白くないから、大衆文芸が盛ん...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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 改造社の古木鉄太郎君の言ふには、「短歌は将来の文芸からとり残されるかどうか?」に就き、僕にも何か言へとのことである。僕は作歌上の素人たる故、再三古木君に断つたところ、素人なればこそ尋ねに来たと言ふ、即ちやむを得ずペンを執り、原稿用紙に向つて見るに、とり残されさうな気もして来れば、とり残されぬらしい気もして来る。  まづ明治大正の間のやうに偉い歌よみが沢山ゐれば、とり残したくともとり残されぬであらう。そこで将来も偉い詩人が生まれ、その詩人の感情を盛るのに短歌の形式を用ふるとすれば、やはりとり残されぬのに相違ない。するととり残されるかとり残されぬかを決するものは未だ生まれざる大詩人が短歌の形式を用ふるかどうかである。  偉い詩人が生ま...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003789", "作品名": "又一説?", "作品名読み": "またいっせつ?", "ソート用読み": "またいつせつ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-03T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3789.html", "人物ID": "000879", "...
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       一  松江へ来て、まず自分の心をひいたものは、この市を縦横に貫いている川の水とその川の上に架けられた多くの木造の橋とであった。河流の多い都市はひとり松江のみではない。しかし、そういう都市の水は、自分の知っている限りでたいていはそこに架けられた橋梁によって少からず、その美しさを殺がれていた。なぜといえば、その都市の人々は必ずその川の流れに第三流の櫛形鉄橋を架けてしかもその醜い鉄橋を彼らの得意なものの一つに数えていたからである。自分はこの間にあって愛すべき木造の橋梁を松江のあらゆる川の上に見いだしえたことをうれしく思う。ことにその橋の二、三が古日本の版画家によって、しばしばその構図に利用せられた青銅の擬宝珠をもって主要な...
底本:「羅生門・鼻・芋粥」角川文庫、角川書店    1950(昭和25)年10月20日初版発行    1985(昭和60)年11月10日改版38版発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月11日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000096", "作品名": "松江印象記", "作品名読み": "まつえいんしょうき", "ソート用読み": "まつえいんしようき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「松陽新報」1915(大正4)年8月", "分類番号": "NDC 915", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card96.html...
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     ――沢木梢氏に――  おれの家の二階の窓は、丁度向うの家の二階の窓と向ひ合ふやうになつてゐる。  向うの家の二階の窓には、百合や薔薇の鉢植が行儀よく幾つも並んでゐる。が、その後には黄いろい窓掛が大抵重さうに下つてゐるから、部屋の中の主人の姿は、未だ一度も見た事がない。  おれの家の二階の窓際には、古ぼけた肱掛椅子が置いてある。おれは毎日その肱掛椅子へ腰を下して、ぼんやり往来の人音を聞いてゐる。  いつ何時おれの所へも、客が来ないものでもない。おれの家の玄関には、ちやんと電鈴がとりつけてある。今にもあの電鈴の愉快な音が、勢よく家中に鳴り渡つたら、おれはこの肱掛椅子から立上つて、早速遠来の珍客を迎へる為に、両腕を大きくひろげ...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月27日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003805", "作品名": "窓", "作品名読み": "まど", "ソート用読み": "まと", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-06T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3805.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名...
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 或曇つた冬の日暮である。私は横須賀発上り二等客車の隅に腰を下して、ぼんやり発車の笛を待つてゐた。とうに電燈のついた客車の中には、珍らしく私の外に一人も乗客はゐなかつた。外を覗くと、うす暗いプラツトフオオムにも、今日は珍しく見送りの人影さへ跡を絶つて、唯、檻に入れられた小犬が一匹、時々悲しさうに、吠え立ててゐた。これらはその時の私の心もちと、不思議な位似つかはしい景色だつた。私の頭の中には云ひやうのない疲労と倦怠とが、まるで雪曇りの空のやうなどんよりした影を落してゐた。私は外套のポツケツトへぢつと両手をつつこんだ儘、そこにはいつてゐる夕刊を出して見ようと云ふ元気さへ起らなかつた。  が、やがて発車の笛が鳴つた。私はかすかな心の寛ぎを...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:野口英司 1998年3月16日公開 2005年10月18日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000098", "作品名": "蜜柑", "作品名読み": "みかん", "ソート用読み": "みかん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1919(大正8)年5月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-03-16T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card98.html", "人物ID": "00087...
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 或曇つた冬の日暮である。私は横須賀發上り二等客車の隅に腰を下して、ぼんやり發車の笛を待つてゐた。とうに電燈のついた客車の中には、珍らしく私の外に一人も乘客はゐなかつた。外を覗くと、うす暗いプラットフォオムにも、今日は珍らしく見送りの人影さへ跡を絶つて、唯、檻に入れられた小犬が一匹、時時悲しさうに、吠え立ててゐた。これらはその時の私の心もちと、不思議な位似つかはしい景色だつた。私の頭の中には云ひやうのない疲勞と倦怠とが、まるで雪曇りの空のやうなどんよりした影を落してゐた。私は外套のポケットへぢつと兩手をつつこんだ儘、そこにはひつてゐる夕刊を出して見ようと云ふ元氣さへ起らなかつた。  が、やがて發車の笛が鳴つた。私はかすかな心の寛ぎを...
底本:「現代日本文學全集 第三十篇 芥川龍之介集」改造社    1928(昭和3)年1月9日発行 初出:「新潮」    1919(大正8)年5月1日 ※表題は底本では、「蜜柑《みかん》」となっています。 入力:高柳典子 校正:岡山勝美 2012年2月8日作成 2021年6月16日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "024453", "作品名": "蜜柑", "作品名読み": "みかん", "ソート用読み": "みかん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1919(大正8)年5月1日", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "旧字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2012-03-21T00:00:00", "最終更新日": "2021-06-16T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card24453.html", "人物ID": "...
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 或曇った冬の日暮である。私は横須賀発上り二等客車の隅に腰を下して、ぼんやり発車の笛を待っていた。とうに電燈のついた客車の中には、珍らしく私の外に一人も乗客はいなかった。外を覗くと、うす暗いプラットフォオムにも、今日は珍しく見送りの人影さえ跡を絶って、唯、檻に入れられた小犬が一匹、時々悲しそうに、吠え立てていた。これらはその時の私の心もちと、不思議な位似つかわしい景色だった。私の頭の中には云いようのない疲労と倦怠とが、まるで雪曇りの空のようなどんよりした影を落していた。私は外套のポッケットへじっと両手をつっこんだまま、そこにはいっている夕刊を出して見ようと云う元気さえ起らなかった。  が、やがて発車の笛が鳴った。私はかすかな心の寛ぎ...
底本:「蜘蛛の糸・杜子春」新潮文庫、新潮社    1968(昭和43)年11月15日発行    1988(平成元)年5月30日46刷 入力:蒋龍 校正:noriko saito 2005年1月7日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "043017", "作品名": "蜜柑", "作品名読み": "みかん", "ソート用読み": "みかん", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1919(大正8)年5月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2005-02-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-18T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card43017.html", "人物ID": "00...
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 講堂で、罹災民慰問会の開かれる日の午後。一年の丙組(当日はここを、僕ら――卒業生と在校生との事務所にした)の教室をはいると、もう上原君と岩佐君とが、部屋のまん中へ机をすえて、何かせっせと書いていた。うつむいた上原君の顔が、窓からさす日の光で赤く見える。入口に近い机の上では、七条君や下村君やその他僕が名を知らない卒業生諸君が、寄附の浴衣やら手ぬぐいやら晒布やら浅草紙やらを、罹災民に分配する準備に忙しい。紺飛白が二人でせっせと晒布をたたんでは手ぬぐいの大きさに截っている。それを、茶の小倉の袴が、せっせと折目をつけては、行儀よく積み上げている。向こうのすみでは、原君や小野君が机の上に塩せんべいの袋をひろげてせっせと数を勘定している。  ...
底本:「羅生門・鼻・芋粥」角川文庫、角川書店    1950(昭和25)年10月20日初版発行    1985(昭和60)年11月10日改版38版発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月11日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000099", "作品名": "水の三日", "作品名読み": "みずのみっか", "ソート用読み": "みすのみつか", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「学友会雑誌」1910(明治43)年11月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card99.html", "...
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一 森の中。三人の盗人が宝を争っている。宝とは一飛びに千里飛ぶ長靴、着れば姿の隠れるマントル、鉄でもまっ二つに切れる剣――ただしいずれも見たところは、古道具らしい物ばかりである。 第一の盗人 そのマントルをこっちへよこせ。 第二の盗人 余計な事を云うな。その剣こそこっちへよこせ。――おや、おれの長靴を盗んだな。 第三の盗人 この長靴はおれの物じゃないか? 貴様こそおれの物を盗んだのだ。 第一の盗人 よしよし、ではこのマントルはおれが貰って置こう。 第二の盗人 こん畜生! 貴様なぞに渡してたまるものか。 第一の盗人 よくもおれを撲ったな。――おや、またおれの剣も盗んだな? 第三の盗人 何だ、このマントル泥坊め! 三人の者が大喧...
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~11月刊行 入力:j.utiyama 校正:多羅尾伴内 2004年1月5日作成 2010年11月4日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "001126", "作品名": "三つの宝", "作品名読み": "みっつのたから", "ソート用読み": "みつつのたから", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「良婦之友」1922(大正11)年2月", "分類番号": "NDC K912 K913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2004-01-30T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-18T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card1126....
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一 なぜファウストは悪魔に出会ったか?  ファウストは神に仕えていた。従って林檎はこういう彼にはいつも「智慧の果」それ自身だった。彼は林檎を見る度に地上楽園を思い出したり、アダムやイヴを思い出したりしていた。  しかし或雪上りの午後、ファウストは林檎を見ているうちに一枚の油画を思い出した。それはどこかの大伽藍にあった、色彩の水々しい油画だった。従って林檎はこの時以来、彼には昔の「智慧の果」の外にも近代の「静物」に変り出した。  ファウストは敬虔の念のためか、一度も林檎を食ったことはなかった。が或嵐の烈しい夜、ふと腹の減ったのを感じ、一つの林檎を焼いて食うことにした。林檎は又この時以来、彼には食物にも変り出した。従って彼は林檎を見る...
底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館    1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第八卷」岩波書店    1978(昭和53)年3月22日発行 初出:「サンデー毎日 第六年第十五号」    1927(昭和2)年4月1日発行 入力:j.utiyama 校正:多羅尾伴内 2004年1月5日公開 2016年2月25日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "001124", "作品名": "三つのなぜ", "作品名読み": "みっつのなぜ", "ソート用読み": "みつつのなせ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「サンデー毎日\u3000第六年第十五号」1927(昭和2)年4月1日", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2004-01-30T00:00:00", "最終更新日": "2016-02-25T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/...
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     1 鼠  一等戦闘艦××の横須賀軍港へはいったのは六月にはいったばかりだった。軍港を囲んだ山々はどれも皆雨のために煙っていた。元来軍艦は碇泊したが最後、鼠の殖えなかったと云うためしはない。――××もまた同じことだった。長雨の中に旗を垂らした二万噸の××の甲板の下にも鼠はいつか手箱だの衣嚢だのにもつきはじめた。  こう云う鼠を狩るために鼠を一匹捉えたものには一日の上陸を許すと云う副長の命令の下ったのは碇泊後三日にならない頃だった。勿論水兵や機関兵はこの命令の下った時から熱心に鼠狩りにとりかかった。鼠は彼等の力のために見る見る数を減らして行った。従って彼等は一匹の鼠も争わない訣には行かなかった。 「この頃みんなの持って来る鼠...
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~11月刊行 入力:j.utiyama 校正:多羅尾伴内 2004年1月5日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "001125", "作品名": "三つの窓", "作品名読み": "みっつのまど", "ソート用読み": "みつつのまと", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造」1927(昭和2)年7月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2004-01-30T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-18T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card1125.html", "人物I...
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Ⅰ  昔々、バグダツドのマホメツト教のお寺の前に、一人の乞食が寝て居りました。丁度その時、説教がすんだので、人々はお寺からぞろぞろと出て来ましたが、誰一人としてこの乞食に、一銭もやる者はありませんでした。最後に一人の商人風の人が出て来ましたが、その乞食を見ると、ポケツトから金を出してやりました。すると乞食は急に起き上つて、「難有う御座います、陛下、アラアはあなたをお守り下さるでせう。」と云ひました。しかしその商人は気にも止めずに行き過ぎようとしますので、乞食は云ひました。「陛下、お止り下さい。お話したい事があります。」すると商人風の人は振り返つて、「私は陛下ではない。」と云ひますと、乞食は「いや、今度の陛下は駱駝追ひになつたり、水汲...
底本:「芥川龍之介全集 第二十二巻」岩波書店    1997(平成9)年10月30日発行 ※「三つの指環」は未定稿で、底本では表題を「三つの指環(仮)」としています。 ※未定稿本文の構造把握に資するよう、底本編集委員会が付した記号は、入力しませんでした。「ママ」の注記も、行いませんでした。 入力:土屋隆 校正:林 幸雄 2007年11月5日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003828", "作品名": "三つの指環", "作品名読み": "みっつのゆびわ", "ソート用読み": "みつつのゆひわ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC K913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-11-20T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3828.html", "人物ID": "000879"...
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     一 机  僕は学校を出た年の秋「芋粥」といふ短篇を新小説に発表した。原稿料は一枚四十銭だつた。が、いかに当時にしても、それだけに衣食を求めるのは心細いことに違ひなかつた。僕はそのために口を探し、同じ年の十二月に海軍機関学校の教官になつた。夏目先生の死なれたのはこの十二月の九日だつた。僕は一月六十円の月俸を貰ひ、昼は英文和訳を教へ、夜はせつせと仕事をした。それから一年ばかりたつた後、僕の月俸は百円になり、原稿料も一枚二円前後になつた。僕はこれらを合せればどうにか家計を営めると思ひ、前から結婚する筈だつた友だちの姪と結婚した。僕の紫檀の古机はその時夏目先生の奥さんに祝つて頂いたものである。机の寸法は竪三尺、横四尺、高さ一尺五...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003782", "作品名": "身のまはり", "作品名読み": "みのまわり", "ソート用読み": "みのまわり", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-06T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3782.html", "人物ID": "000879", "姓"...
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 ある冬の夜、私は旧友の村上と一しょに、銀座通りを歩いていた。 「この間千枝子から手紙が来たっけ。君にもよろしくと云う事だった。」  村上はふと思い出したように、今は佐世保に住んでいる妹の消息を話題にした。 「千枝子さんも健在だろうね。」 「ああ、この頃はずっと達者のようだ。あいつも東京にいる時分は、随分神経衰弱もひどかったのだが、――あの時分は君も知っているね。」 「知っている。が、神経衰弱だったかどうか、――」 「知らなかったかね。あの時分の千枝子と来た日には、まるで気違いも同様さ。泣くかと思うと笑っている。笑っているかと思うと、――妙な話をし出すのだ。」 「妙な話?」  村上は返事をする前に、ある珈琲店の硝子扉を押した。そうし...
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年1月27日第1刷発行    1993(平成5)年12月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月19日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000103", "作品名": "妙な話", "作品名読み": "みょうなはなし", "ソート用読み": "みようなはなし", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「現代」1921(大正10)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-19T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card103.html", "人物...
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 書紀によると、日本では、推古天皇の三十五年春二月、陸奥で始めて、貉が人に化けた。尤もこれは、一本によると、化人でなくて、比人とあるが、両方ともその後に歌之と書いてあるから、人に化けたにしろ、人に比ったにしろ、人並に唄を歌った事だけは事実らしい。  それより以前にも、垂仁紀を見ると、八十七年、丹波の国の甕襲と云う人の犬が、貉を噛み食したら、腹の中に八尺瓊曲玉があったと書いてある。この曲玉は馬琴が、八犬伝の中で、八百比丘尼妙椿を出すのに借用した。が、垂仁朝の貉は、ただ肚裡に明珠を蔵しただけで、後世の貉の如く変化自在を極めた訳ではない。すると、貉の化けたのは、やはり推古天皇の三十五年春二月が始めなのであろう。  勿論貉は、神武東征の昔か...
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1995(平成7)年10月5日第13刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」    1971(昭和46)年3月~11月 入力:j.utiyama 校正:もりみつじゅんじ 1998年11月7日公開 2004年1月11日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000102", "作品名": "貉", "作品名読み": "むじな", "ソート用読み": "むしな", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「読売新聞」1917(大正6)年3月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-11-07T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card102.html", "人物ID": "000...
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 わたくしはけふの講演会に出るつもりでゐましたが、腹を壊してゐる為に出られません。元来講演と云ふものは肉体労働に近いものですから、腹に力のない時には出来ないのです。甚だ尾籠なお話ですが、第一下痢をする時には何だか鮫の卵か何かを生み落してゐるやうに感ずるのです。それだけでももうがつかりします。おまけに胃袋まで鯨のやうに時々潮を吐き出すのです。そこで友人佐佐木茂索君にこの文章を読んで貰ふことにしました。勿論佐佐木君は読むだけではなく、佐佐木君自身の講演もされることと信じてゐます。若し万一されなかつたとすれば、どうか足を踏み鳴らして、総立ちになつてお騒ぎ下さい。右とりあへず御挨拶まで。 (大正十五年六月)
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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 僕は、船のサルーンのまん中に、テーブルをへだてて、妙な男と向いあっている。――  待ってくれ給え。その船のサルーンと云うのも、実はあまり確かでない。部屋の具合とか窓の外の海とか云うもので、やっとそう云う推定を下しては見たものの、事によると、もっと平凡な場所かも知れないと云う懸念がある。いや、やっぱり船のサルーンかな。それでなくては、こう揺れる筈がない。僕は木下杢太郎君ではないから、何サンチメートルくらいな割合で、揺れるのかわからないが、揺れる事は、確かに揺れる。嘘だと思ったら、窓の外の水平線が、上ったり下ったりするのを、見るがいい。空が曇っているから、海は煮切らない緑青色を、どこまでも拡げているが、それと灰色の雲との一つになる所が...
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年9月24日第1刷発行    1995(平成7)年10月5日第13刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:earthian 1998年11月11日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000097", "作品名": "Mensura Zoili", "作品名読み": "メンスラ\u3000ゾイリ", "ソート用読み": "めんすらそいり", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新思潮」1917(大正6)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-11-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/ca...
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 歳晩のある暮方、自分は友人の批評家と二人で、所謂腰弁街道の、裸になった並樹の柳の下を、神田橋の方へ歩いていた。自分たちの左右には、昔、島崎藤村が「もっと頭をあげて歩け」と慷慨した、下級官吏らしい人々が、まだ漂っている黄昏の光の中に、蹌踉たる歩みを運んで行く。期せずして、同じく憂鬱な心もちを、払いのけようとしても払いのけられなかったからであろう。自分たちは外套の肩をすり合せるようにして、心もち足を早めながら、大手町の停留場を通りこすまでは、ほとんど一言もきかずにいた。すると友人の批評家が、あすこの赤い柱の下に、電車を待っている人々の寒むそうな姿を一瞥すると、急に身ぶるいを一つして、 「毛利先生の事を思い出す。」と、独り語のように呟い...
底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年10月28日第1刷発行    1996(平成8)年7月15日第11刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月7日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000101", "作品名": "毛利先生", "作品名読み": "もうりせんせい", "ソート用読み": "もうりせんせい", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1919(大正8)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-07T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card101.html", "人物...
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一  むかし、むかし、大むかし、ある深い山の奥に大きい桃の木が一本あった。大きいとだけではいい足りないかも知れない。この桃の枝は雲の上にひろがり、この桃の根は大地の底の黄泉の国にさえ及んでいた。何でも天地開闢の頃おい、伊弉諾の尊は黄最津平阪に八つの雷を却けるため、桃の実を礫に打ったという、――その神代の桃の実はこの木の枝になっていたのである。  この木は世界の夜明以来、一万年に一度花を開き、一万年に一度実をつけていた。花は真紅の衣蓋に黄金の流蘇を垂らしたようである。実は――実もまた大きいのはいうを待たない。が、それよりも不思議なのはその実は核のあるところに美しい赤児を一人ずつ、おのずから孕んでいたことである。  むかし、むかし、大...
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 初出:「サンデー毎日 夏期特別号」    1924(大正13)年7月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月8日公開 2012年9月21日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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 或夏の夜、まだ文科大学の学生なりしが、友人山宮允君と、観潮楼へ参りし事あり。森先生は白きシャツに白き兵士の袴をつけられしと記憶す。膝の上に小さき令息をのせられつつ、仏蘭西の小説、支那の戯曲の話などせられたり。話の中、西廂記と琵琶記とを間違え居られし為、先生も時には間違わるる事あるを知り、反って親しみを増せし事あり。部屋は根津界隈を見晴らす二階、永井荷風氏の日和下駄に書かれたると同じ部屋にあらずやと思う。その頃の先生は面の色日に焼け、如何にも軍人らしき心地したれど、謹厳などと云う堅苦しさは覚えず。英雄崇拝の念に充ち満ちたる我等には、快活なる先生とのみ思われたり。  又夏目先生の御葬式の時、青山斎場の門前の天幕に、受附を勤めし事ありし...
底本:「大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ」講談社文芸文庫、講談社    1995(平成7)年1月10日第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第一~九、一二巻」岩波書店    1977(昭和52)年7、9~12月、1978(昭和53)年1~4、7月発行 入力:向井樹里 校正:砂場清隆 2007年2月12日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "043390", "作品名": "森先生", "作品名読み": "もりせんせい", "ソート用読み": "もりせんせい", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-03-10T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card43390.html", "人物ID": "000879", "姓...
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 我文部省の仮名遣改定案は既に山田孝雄氏の痛撃を加へたる所なり。(雑誌「明星」二月号参照)山田氏の痛撃たる、尋常一様の痛撃にあらず。その当に破るべきを破つて寸毫の遺憾を止めざるは殆どサムソンの指動いてペリシデのマツチ箱のつぶるるに似たり。この山田氏の痛撃の後に仮名遣改定案を罵らむと欲す、誰か又蒸気ポンプの至れる後、龍吐水を持ち出すの歎なきを得むや。然れども思へ、火を滅せむには一杓の水も用なしと做さず。況や一条龍吐水の水をや。是僕の創見なきを羞ぢず、消防に加はらむとする所以なり。  我文部省の仮名遣改定案は漫然と「改定」を称すれども、何に依つて改定せるかを明らかにせず。勿論政府の命ずる所の何に依るかを明らかにせざるは必しも咎むべからざ...
底本:「芥川龍之介全集 第十二巻」岩波書店    1996(平成8)年10月8日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:松永正敏 2002年5月17日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "001133", "作品名": "文部省の仮名遣改定案について", "作品名読み": "もんぶしょうのかなづかいかいていあんについて", "ソート用読み": "もんふしようのかなつかいかいていあんについて", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造」1925(大正14)年3月", "分類番号": "NDC 811", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-10-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aoz...
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     一 清閑 「乱山堆裡結茅蘆 已共紅塵跡漸疎  莫問野人生計事 窓前流水枕前書」  とは少時漢詩なるものを作らせられた時度たびお手本の役をつとめた李九齢の七絶である。今は子供心に感心したほど、名詩とも何とも思つてゐない。乱山堆裡に茅蘆を結んでゐても、恩給証書に貯金の通帳位は持つてゐたのだらうと思つてゐる。  しかし兎に角李九齢は窓前の流水と枕前の書とに悠悠たる清閑を領してゐる。その点は甚だ羨ましい。僕などは売文に餬口する為に年中匇忙たる思ひをしてゐる。ゆうべも二時頃まで原稿を書き、やつと床へはひつたと思つたら、今度は電報に叩き起された。社命、僕にサンデイ毎日の随筆を書けと云ふ電報である。  随筆は清閑の所産である。少く...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003743", "作品名": "野人生計事", "作品名読み": "やじんせいけいごと", "ソート用読み": "やしんせいけいこと", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-09T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3743.html", "人物ID": "0008...
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     わん  ある冬の日の暮、保吉は薄汚いレストランの二階に脂臭い焼パンを齧っていた。彼のテエブルの前にあるのは亀裂の入った白壁だった。そこにはまた斜かいに、「ホット(あたたかい)サンドウィッチもあります」と書いた、細長い紙が貼りつけてあった。(これを彼の同僚の一人は「ほっと暖いサンドウィッチ」と読み、真面目に不思議がったものである。)それから左は下へ降りる階段、右は直に硝子窓だった。彼は焼パンを齧りながら、時々ぼんやり窓の外を眺めた。窓の外には往来の向うに亜鉛屋根の古着屋が一軒、職工用の青服だのカアキ色のマントだのをぶら下げていた。  その夜学校には六時半から、英語会が開かれるはずになっていた。それへ出席する義務のあった彼は...
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月10日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000182", "作品名": "保吉の手帳から", "作品名読み": "やすきちのてちょうから", "ソート用読み": "やすきちのてちようから", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造」1923(大正12)年5月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-10T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card18...
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検非違使に問われたる木樵りの物語  さようでございます。あの死骸を見つけたのは、わたしに違いございません。わたしは今朝いつもの通り、裏山の杉を伐りに参りました。すると山陰の藪の中に、あの死骸があったのでございます。あった処でございますか? それは山科の駅路からは、四五町ほど隔たって居りましょう。竹の中に痩せ杉の交った、人気のない所でございます。  死骸は縹の水干に、都風のさび烏帽子をかぶったまま、仰向けに倒れて居りました。何しろ一刀とは申すものの、胸もとの突き傷でございますから、死骸のまわりの竹の落葉は、蘇芳に滲みたようでございます。いえ、血はもう流れては居りません。傷口も乾いて居ったようでございます。おまけにそこには、馬蠅が一匹...
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年1月27日第1刷発行    1996(平成8)年7月15日第8刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 初出:「新潮」    1922(大正11)年1月 入力:平山誠、野口英司 校正:もりみつじゅんじ 1997年11月10日公開 2011年5月22日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000179", "作品名": "藪の中", "作品名読み": "やぶのなか", "ソート用読み": "やふのなか", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1922(大正11)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1997-11-10T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card179.html", "人物ID":...
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檢非違使に問はれたる木樵りの物語  さやうでございます。あの死骸を見つけたのは、わたしに違ひございません。わたしは今朝何時もの通り、裏山の杉を伐りに參りました。すると山陰の藪の中に、あの死骸があつたのでございます。あつた所でございますか? それは山科の驛路からは、四五町程隔たつて居りませう。竹の中に痩せ杉の交つた、人氣のない所でございます。  死骸は縹の水干に、都風のさび烏帽子をかぶつた儘、仰向けに倒れて居りました。何しろ一刀とは申すものの、胸もとの突き傷でございますから、死骸のまはりの竹の落葉は、蘇芳に滲みたやうでございます。いえ、血はもう流れては居りません。傷口も乾いて居つたやうでございます。おまけに其處には、馬蠅が一匹、わた...
底本:「現代日本文學全集 第三〇篇 芥川龍之介集」改造社    1928(昭和3)年1月9日発行 初出:「新潮」    1922(大正11)年1月1日 ※表題は底本では、「藪《やぶ》の中《なか》」となっています。 入力:高柳典子 校正:岡山勝美 2012年2月8日作成 2012年3月25日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "024454", "作品名": "藪の中", "作品名読み": "やぶのなか", "ソート用読み": "やふのなか", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1922(大正11)年1月1日", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "旧字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2012-03-25T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-16T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card24454.html", "人物...
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 千八百八十年五月何日かの日暮れ方である。二年ぶりにヤスナヤ・ポリヤナを訪れた Ivan Turgenyef は主の Tolstoi 伯爵と一しよに、ヴアロンカ川の向うの雑木林へ、山鴫を打ちに出かけて行つた。  鴫打ちの一行には、この二人の翁の外にも、まだ若々しさの失せないトルストイ夫人や、犬をつれた子供たちが加はつてゐた。  ヴアロンカ川へ出るまでの路は、大抵麦畑の中を通つてゐた。日没と共に生じた微風は、その麦の葉を渡りながら、静に土の匂を運んで来た。トルストイは銃を肩にしながら、誰よりも先に歩いて行つた。さうして時々後を向いては、トルストイ夫人と歩いてゐるトウルゲネフに話しかけた。その度に「父と子と」の作家は、やや驚いたやうに眼...
底本:「現代日本文學大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 初出:「中央公論」    1921(大正10)年1月 ※「モウパスサン」と「モオパスサン」の混在は、底本通りです。 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月19日公開 2014年5月30日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000180", "作品名": "山鴫", "作品名読み": "やましぎ", "ソート用読み": "やましき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1921(大正10)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-19T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card180.html", "人物ID": ...
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一  島々と云ふ町の宿屋へ着いたのは、午過ぎ――もう夕方に近い頃であつた。宿屋の上り框には、三十恰好の浴衣の男が、青竹の笛を鳴らしてゐた。  私はその癇高い音を聞きながら、埃にまみれた草鞋の紐を解いた。其処へ婢が浅い盥に、洗足の水を汲んで来た。水は冷たく澄んだ底に、粗い砂を沈めてゐた。  二階の縁側の日除けには、日の光が強く残つてゐた。そのせゐか畳も襖も、残酷な程むさくるしく見えた。夏服を浴衣に着換へた私は、括り枕を出して貰つて、長長と仰向けに寝ころんだ儘、昨日東京を立つ時に買つた講談玉菊燈籠を少し読んだ。読みながら、浴衣の糊の臭ひが、始終気になつて仕方がなかつた。  日がかげるとさつきの婢が、塗りの剥げた高盆に湯札を一枚のせて来...
底本:「現代日本紀行文学全集 中部日本編」ほるぷ出版    1976(昭和51)年8月1日発行 初出:「改造」改造社    1920(大正9)年7月 ※巻末に1920(大正9)年6月記と記載有り。 ※疑問箇所の確認と訂正にあたっては、「芥川龍之介全集 第六巻」岩波書店、1996(平成8)年4月8日発行を参照した。 ※「それにも関らず峠へかかると、彼と私の間の距離は、だんだん遠く隔たり始めた。」は、「芥川龍之介全集 第六巻」岩波書店、1996(平成8)年4月8日発行(以下同)では、「それにも関らず峠へかかると、彼と私との間の距離は、だんだん遠く隔たり始めた。」とされており、「彼と私の間」ではなく、「彼と私との間」となっている。 ※「馬...
{"作品ID": "004628", "作品名": "槍ヶ岳紀行", "作品名読み": "やりがたけきこう", "ソート用読み": "やりかたけきこう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造」1920(大正9)年7月", "分類番号": "NDC 915", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2003-03-24T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card4628.html",...
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     赤沢  雑木の暗い林を出ると案内者がここが赤沢ですと言った。暑さと疲れとで目のくらみかかった自分は今まで下ばかり見て歩いていた。じめじめした苔の間に鷺草のような小さな紫の花がさいていたのは知っている。熊笹の折りかさなった中に兎の糞の白くころがっていたのは知っている。けれどもいったい林の中を通ってるんだか、やぶの中をくぐっているんだかはさっぱり見当がつかなかった。ただむやみに、岩だらけの路を登って来たのを知っているばかりである。それが「ここが赤沢です」と言う声を聞くと同時にやれやれ助かったという気になった。そうして首を上げて、今まで自分たちの通っていたのが、しげった雑木の林だったということを意識した。安心すると急に四方のな...
底本:「羅生門・鼻・芋粥」角川文庫、角川書店    1950(昭和25)年10月20日初版発行    1985(昭和60)年11月10日改版38版発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月11日公開 2004年3月10日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000181", "作品名": "槍が岳に登った記", "作品名読み": "やりがたけにのぼったき", "ソート用読み": "やりかたけにのほつたき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「芥川龍之介全集\u3000別冊」岩波書店、1929(昭和4)年2月", "分類番号": "NDC 915", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/c...
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 十月のある午後、僕等三人は話し合いながら、松の中の小みちを歩いていた。小みちにはどこにも人かげはなかった。ただ時々松の梢に鵯の声のするだけだった。 「ゴオグの死骸を載せた玉突台だね、あの上では今でも玉を突いているがね。……」  西洋から帰って来たSさんはそんなことを話して聞かせたりした。  そのうちに僕等は薄苔のついた御影石の門の前へ通りかかった。石に嵌めこんだ標札には「悠々荘」と書いてあった。が、門の奥にある家は、――茅葺き屋根の西洋館はひっそりと硝子窓を鎖していた。僕は日頃この家に愛着を持たずにはいられなかった。それは一つには家自身のいかにも瀟洒としているためだった。しかしまたそのほかにも荒廃を極めたあたりの景色に――伸び放題...
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 初出:「サンデー毎日」    1927(昭和2)年1月 入力:j.utiyama 校正:小林繁雄 2005年1月27日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "001127", "作品名": "悠々荘", "作品名読み": "ゆうゆうそう", "ソート用読み": "ゆうゆうそう", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「サンデー毎日」1927(昭和2)年1月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2005-03-05T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-18T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card1127.html", "...
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1  天主教徒の古暦の一枚、その上に見えるのはこう云う文字である。――  御出生来千六百三十四年。せばすちあん記し奉る。     二月。小  二十六日。さんたまりやの御つげの日。  二十七日。どみいご。     三月。大  五日。どみいご、ふらんしすこ。  十二日。…………… 2  日本の南部の或山みち。大きい樟の木の枝を張った向うに洞穴の口が一つ見える。暫くたってから木樵りが二人。この山みちを下って来る。木樵りの一人は洞穴を指さし、もう一人に何か話しかける。それから二人とも十字を切り、はるかに洞穴を礼拝する。 3  この大きい樟の木の梢。尻っ尾の長い猿が一匹、或枝の上に坐ったまま、じっと遠い海を見守っている。海の上には帆...
底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館    1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行 底本の親本:「芥川龍之介全集 第八卷」岩波書店    1978(昭和53)年3月22日発行 初出:「改造 第九卷第四号」    1927(昭和2)年4月1日発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月26日公開 2016年2月25日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000188", "作品名": "誘惑", "作品名読み": "ゆうわく", "ソート用読み": "ゆうわく", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「改造\u3000第九卷第四号」1927(昭和2)年4月1日", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-26T00:00:00", "最終更新日": "2016-02-25T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card188.html...
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 或冬曇りの午後、わたしは中央線の汽車の窓に一列の山脈を眺めてゐた。山脈は勿論まつ白だつた。が、それは雪と言ふよりも山脈の皮膚に近い色をしてゐた。わたしはかう言ふ山脈を見ながら、ふと或小事件を思ひ出した。――  もう四五年以前になつた、やはり或冬曇りの午後、わたしは或友だちのアトリエに、――見すぼらしい鋳もののストオヴの前に彼やそのモデルと話してゐた。アトリエには彼自身の油画の外に何も装飾になるものはなかつた。巻煙草を啣へた断髪のモデルも、――彼女は成程混血児じみた一種の美しさを具へてゐた。しかしどう言ふ量見か、天然自然に生えた睫毛を一本残らず抜きとつてゐた。……  話はいつかその頃の寒気の厳しさに移つてゐた。彼は如何に庭の土の季...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003817", "作品名": "雪", "作品名読み": "ゆき", "ソート用読み": "ゆき", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-06T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3817.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名...
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 わたしはすっかり疲れていた。肩や頸の凝るのは勿論、不眠症もかなり甚しかった。のみならず偶々眠ったと思うと、いろいろの夢を見勝ちだった。いつか誰かは「色彩のある夢は不健全な証拠だ」と話していた。が、わたしの見る夢は画家と云う職業も手伝うのか、大抵色彩のないことはなかった。わたしはある友だちと一しょにある場末のカッフェらしい硝子戸の中へはいって行った。そのまた埃じみた硝子戸の外はちょうど柳の新芽をふいた汽車の踏み切りになっていた。わたしたちは隅のテエブルに坐り、何か椀に入れた料理を食った。が、食ってしまって見ると、椀の底に残っているのは一寸ほどの蛇の頭だった。――そんな夢も色彩ははっきりしていた。  わたしの下宿は寒さの厳しい東京のあ...
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年3月24日第1刷発行    1993(平成5)年2月25日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:もりみつじゅんじ 1999年3月1日公開 2004年3月13日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000186", "作品名": "夢", "作品名読み": "ゆめ", "ソート用読み": "ゆめ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「婦人公論」1926(大正15)年11月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-03-01T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card186.html", "人物ID": "000...
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 夢の中に色彩を見るのは神経の疲れてゐる証拠であると云ふ。が、僕は子供の時からずつと色彩のある夢を見てゐる。いや、色彩のない夢などと云ふものはあることも殆ど信ぜられない。現に僕はこの間も夢の中の海水浴場に詩人のH・K君とめぐり合つた。H・K君は麦藁帽をかぶり、美しい紺色のマントを着てゐた。僕はその色に感心したから、「何色ですか?」と尋ねて見た。すると詩人は砂を見たまま、極めて無造作に返事をした。――「これですか? これは札幌色ですよ。」  それから又夢の中には嗅覚は決して現れないと云ふ。しかし僕は夢の中にゴムか何か燃やしてゐるらしい悪臭を感じたのを覚えてゐる。それは何でも川の見える、日の暮らしい場末の町を歩いてゐる時の出来事だつた。...
底本:「芥川龍之介全集 第十三巻」岩波書店    1996(平成8)年11月8日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:林 幸雄 2002年1月26日公開 2004年3月17日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "004308", "作品名": "夢", "作品名読み": "ゆめ", "ソート用読み": "ゆめ", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-01-26T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card4308.html", "人物ID": "000879", "姓": "芥川", "名...
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 良平はある雑誌社に校正の朱筆を握っている。しかしそれは本意ではない。彼は少しの暇さえあれば、翻訳のマルクスを耽読している。あるいは太い指の先に一本のバットを楽しみながら、薄暗いロシアを夢みている。百合の話もそう云う時にふと彼の心を掠めた、切れ切れな思い出の一片に過ぎない。  今年七歳の良平は生まれた家の台所に早い午飯を掻きこんでいた。すると隣の金三が汗ばんだ顔を光らせながら、何か大事件でも起ったようにいきなり流し元へ飛びこんで来た。 「今ね、良ちゃん。今ね、二本芽の百合を見つけて来たぜ。」  金三は二本芽を表わすために、上を向いた鼻の先へ両手の人さし指を揃えて見せた。 「二本芽のね?」  良平は思わず目を見張った。一つの根から芽...
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房    1987(昭和62)年2月24日第1刷発行    1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月8日公開 2004年3月9日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000187", "作品名": "百合", "作品名読み": "ゆり", "ソート用読み": "ゆり", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新潮」1922(大正11)年10月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1999-01-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card187.html", "人物ID": "0008...
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 あなたは私の申し上げる事を御信じにならないかも知れません。いや、きっと嘘だと御思いなさるでしょう。昔なら知らず、これから私の申し上げる事は、大正の昭代にあった事なのです。しかも御同様住み慣れている、この東京にあった事なのです。外へ出れば電車や自働車が走っている。内へはいればしっきりなく電話のベルが鳴っている。新聞を見れば同盟罷工や婦人運動の報道が出ている。――そう云う今日、この大都会の一隅でポオやホフマンの小説にでもありそうな、気味の悪い事件が起ったと云う事は、いくら私が事実だと申した所で、御信じになれないのは御尤もです。が、その東京の町々の燈火が、幾百万あるにしても、日没と共に蔽いかかる夜をことごとく焼き払って、昼に返す訣には行...
底本:「芥川龍之介全集3」ちくま文庫、筑摩書房    1986(昭和61)年12月1日第1刷発行    1996(平成8)年4月1日第8刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房    1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1998年12月8日公開 2004年3月13日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティア...
{"作品ID": "000184", "作品名": "妖婆", "作品名読み": "ようば", "ソート用読み": "ようは", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「中央公論」1919(大正8)年9、10月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字新仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-12-08T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card184.html", "人物ID": ...
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       カフエ  僕は或カフエの隅に半熟の卵を食べてゐた。するとぼんやりした人が一人、僕のテエブルに腰をおろした。僕は驚いてその人をながめた。その人は妙にどろりとした、薄い生海苔の洋服を着てゐた。        虹  僕はいつも煤の降る工廠の裏を歩いてゐた。どんより曇つた工廠の空には虹が一すぢ消えかかつてゐた。僕は踵を擡げるやうにし、ちよつとその虹へ鼻をやつて見た。すると――かすかに石油の匂がした。        五分間写真  僕は或晩春の午後、或若い海軍中尉と五分間写真を映しに行つた。写真はすぐに出来上つた。しかし印画に映つたのは大きいⅥといふ羅馬数字だつた。        小さい泥  僕は或十二三のお嬢さんの...
底本:「芥川龍之介全集 第十三巻」岩波書店    1996(平成8)年11月8日発行 入力:もりみつじゅんじ 校正:林 幸雄 2002年1月26日公開 2004年3月17日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "001135", "作品名": "横須賀小景", "作品名読み": "よこすかしょうけい", "ソート用読み": "よこすかしようけい", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「驢馬」1926(大正15)年5月", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2002-01-26T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card1135.htm...
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上 友だち 処でね、一つ承りたい事があるんだが。 世之助 何だい。馬鹿に改まつて。 友だち それがさ。今日はふだんとちがつて、君が近々に伊豆の何とか云ふ港から船を出して、女護ヶ島へ渡らうと云ふ、その名残りの酒宴だらう。 世之助 さうさ。 友だち だから、こんな事を云ひ出すのは、何だか一座の興を殺ぐやうな気がして、太夫の手前も、聊恐縮なんだがね。 世之助 そんならよせばいいぢやないか。 友だち 処が、よせないね。よせる位なら、始から云ひ出しはしない。 世之助 ぢや話すさ。 友だち それがさ、さう中々簡単には行かない訳がある。 世之助 何故? 友だち 尋く方も、尋かれる方も、あんまり難有い事ぢやないからね。尤も君が愈いいと云へば、私も...
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房    1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 初出:「新小説」    1918(大正7)年4月 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:j.utiyama 校正:柳沢成雄 1998年10月11日公開 2012年3月20日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "000183", "作品名": "世之助の話", "作品名読み": "よのすけのはなし", "ソート用読み": "よのすけのはなし", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "「新小説」1918(大正7)年4月", "分類番号": "NDC 913", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "1998-10-11T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-17T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card183.html",...
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 今の世の中は、男の作つた制度や習慣が支配してゐるから、男女に依つては非常に不公平な点がある。その不公平を矯正する為には、女自身が世の中の仕事に関与しなければならぬ。唯、不公平と云ふ意味は、必ずしも、男だけが得をしてゐると云ふ意味ではない。いや、どうかすると、私には女の方が得をしてゐる場合が多いやうに見える。たとへば相撲である。我々は、女の裸体は滅多に見られないけれども、女は、相撲を見にゆきさへすれば、何時でも逞しい男の裸体を見ることが出来る。これは女が得をして男が損をしている場合であると思ふ。  相撲の話で思出したが、何時か、「人間」といふ雑誌の表紙の絵を、二枚、警視庁の役人に見せたところが、一つの絵は女の裸体画だから許可すること...
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房    1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行    1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行 入力:土屋隆 校正:松永正敏 2007年6月26日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
{"作品ID": "003757", "作品名": "世の中と女", "作品名読み": "よのなかとおんな", "ソート用読み": "よのなかとおんな", "副題": "", "副題読み": "", "原題": "", "初出": "", "分類番号": "NDC 914", "文字遣い種別": "新字旧仮名", "作品著作権フラグ": "なし", "公開日": "2007-08-06T00:00:00", "最終更新日": "2014-09-21T00:00:00", "図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3757.html", "人物ID": "000879...
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